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親子で学びたい。我が子に伝えたい。そんな気持ちになれる、やる気が出てくる世界の言葉。歴史上の偉人や名著からピックアップ。その言葉はどうして出てきたのか、お伝えしていきます。
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あなたのお子さんは学校が好きですか?お子さんに、何のために学校へ行っているのか聞いてみたことはありますか?
勉強をする、お友達に会える、給食が楽しみ・・・などなど、色々と答えてくれそうですね。
しかし、「全くもってわからない」「特に何の楽しみも目的もない」なんていう答えが出てくるかもしれません。
そんな時に親として、どんな話をお子さんにするべきでしょうか。
親御さんたちも、自身の子ども時代を振り返って見ると、なぜ勉強なんかしなくてはいけないのかと思っていませんでしたか?
そして、大人になっても勉強する理由を見つけられない人もいます。
お子さんだけではなく、親御さんにも勉強することの魅力とやる気を与えてくれる言葉、そしてそれが書かれた一冊の本を紹介します。
【やる気が出てくる世界の言葉】
”ない”ものを見て、初めて”ある”ものの大切さがわかる
「ぼくの学校は駅の10番ホーム~夢に向かって走る、家なしビッキー物語~」/今西乃子著
この本は社会活動家の今西乃子さんが、インド・コルカタでの経験をもとに書いたノンフィクションです。
ストリートチルドレンの現状に興味があり、その取材のためにコルカタを訪れた今西さん。
到着するとすぐに、物乞いをする子どもたちが山のように群がり、身動きが取れないほどでした。
事前に取材内容を伝えていたガイドのバスゥさんという男性に連れられて訪れたのは、コルカタで2番目に大きな駅、シャルダー駅でした。
うだるような暑さと、鼻をつく悪臭。その10番ホームの一番先に、プラットフォームスクールと呼ばれる不思議な学校がありました。
粗末なほったて小屋のような建物。暗い室内では裸電球が一つ、弱々しい明かりを放っていました。その下でうずくまり、子どもたちは一生懸命国語(ベンガル語)の勉強をしています。無駄なおしゃべりや、立ち歩きをする子は1人もいません。
一心不乱にノートにかじりついています。今西さんは、その光景を見て疑問を隠せませんでした。彼女も、自身の子ども時代を振り返っています。
子どもの頃は、勉強が嫌で嫌で仕方がなかった。勉強さえなければ、学校はもっと楽しいのにといつも思っていたと。
筆者も含め、今西さんに共感する方は沢山いらっしゃるのではないでしょうか。
バスゥさんが言うには、インド国民の識字率は70パーセントほど。3人に1人は読み書きができない計算になります。
日本では考えられない確率ですが、世界にはこのような国もあるのです。
この学校に通う子どもたちは、ストリートチルドレン。親がいない子や、親がいても貧しいために路上での生活を強いられている子どもたちです。
多くは、このシャルダー駅の臨時ホームで身を寄せ合って暮らし、朝が来るとみんな10番ホームの学校にやってくるのです。
インドは、国際的に活躍する人材を輩出し続ける優れた国です。その一方で、貧困にあえぎ、幼くして売春や犯罪に走る子どもたちが大勢いることも事実です。
こうした問題の背景には、満足な初等教育が受けられないことが原因の一つとして考えられています。
充分な教育を受けられず大人になり、収入の低い労働に従事するしかなく、その子どもたちもまた、教育の恩恵に浴せず大人になっていくのです。
この貧困の連鎖を根本から解決するには、全国民への教育の普及と充実が求められています。
取材を続ける今西さんは、ある一人の男の子が気になります。他の子どもたちと同じく、熱心にノートに文字を綴っていますが、その子が一生懸命書いていたのは英語だったからです。
彼の名前はビッキー、13才。
勉強は楽しいかと問うと、なぜそんなことを聞くのかわからない、というような表情を浮かべて、「僕は先生になるんだ」とはっきり答えたのです。
この学校は、誰も学校へ来ることを強要しません。休んでも誰も何も言わず、怒られることもありません。
それなのになぜ、と疑問に思うでしょう。ビッキーをはじめ、ここで勉強する子どもたちは知っているのです。
勉強をすること、それこそが貧困を減らす唯一の方法だということを。貧困が原因で社会から受けた様々な仕打ち。それらの過酷な現実から子どもたちを守りたいと言うビッキー。
彼の教師になるという夢は、自分の為だけではなく世の中のために成し遂げなければならないという強い意思のもとにあるのです。
やる気が出てくる世界の言葉:
”ない”ものを見て、初めて”ある”ものの大切さがわかる
この言葉は、初めてプラットフォームスクールを訪れた今西さんに、ガイドのバスゥさんが言った言葉です。
子どもたちの気を引くような設備もない、特別楽しい勉強法があるわけでもない、そんなプラットフォームスクールで熱心に学ぶ子どもたちを見て不思議がる今西さんに、さらにバスゥさんはこう言います。
一見恵まれているように見える日本の子どもたちですが、実は先の見えない学びの中で、溺れそうになって苦しんでいるのではないでしょうか。
学校へ通うことが当然で、先生がいることが当然、教科書やノート、鉛筆があることが当然。
しかし、そのこと自体が幸せだと思っている子は少ないでしょう。日本の子どもたちは、当たり前のように小学校へ通い、卒業するとまた、当たり前のように中学校へ通います。
そして義務教育が終わった後も、高校へ通わないという選択をする人はごく少数。なぜ勉強するのかを理解できないまま、流れに任せるように学び続けるのです。それはとても辛く苦しいことでしょう。
ビッキーは、恵まれない環境の中でも明るく前向きです。彼をそうさせるのは、将来への大きな夢があるからです。ビッキーは言います。
「生まれてきたこと自体が大きなチャンス」だ、貧しいことは恥ではないのだと。彼の姿を見ていると、全ての原動力は「夢」を持つことだと思わされます。
苦しい生活を強いられ、不当な扱いを受けながらも、のちの世代の子どもたちを貧困から救うのだという使命感。
その気持ちが突き動かすビッキーの勉強への情熱に、子どもたちは圧倒されることと思います。
この本に出会うと、物質的、環境的に恵まれていることが、必ずしも幸福であるとは限らないということがわかります。
ビッキーが持つのは、「何もない」ところから生まれるエネルギーです。自分の持てる全てを使って、夢を叶えるのだという気持ち。
その心を持ったとき、はじめて勉強が意味を持ち、楽しく輝くものとなるでしょう。
やる気が出てくる世界の言葉:
”ない”ものを見て、初めて”ある”ものの大切さがわかる
「ぼくの学校は駅の10番ホーム~夢に向かって走る、家なしビッキー物語~」/今西乃子著
参考文献:インドにおける教育の不平等/佐々木宏
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この記事を書いた人
藤原 望(ふじはら のぞみ)
1993年生まれ。埼玉県出身。大学卒業後は福祉施設に勤務するが、社会人5年目で一念発起し文章を扱う仕事を目指す。この世で好きなもののトップ3は本、映画、お酒。