新納一哉さん、ゲーム開発にかける想い「やりたい気持ちに、ウソをつきたくない」
2020.07.29
子育て・教育
2019.10.17
親子で学びたい。我が子に伝えたい。そんな気持ちになれる、やる気が出てくる世界の言葉。歴史上の偉人や名著からピックアップ。その言葉はどうして出てきたのか、お伝えしていきます。
▶シリーズの一覧はこちら
サバサバしているね、と思われたいのに「根に持つタイプ」と思われてしまう。
仕方がないとわかっていても、過ぎたことをいつまでもグチグチ言ってしまう…。
そんな思いを持っている皆さんや皆さんのお子さまに、過去を引きずることなく、次に気持ちを向け歩き出すやる気を与えてくれる言葉と本をご紹介します。
【やる気が出てくる世界の言葉】
過去を忘れず、されどうらまず
「心はつながっている」/グェン•ドク著 グェン•ファン•フォン訳
初めてテレビで彼らの姿を見たときは、言いようのないショックを受けました。
下半身がY字で繋がった双子の男の子、ベトちゃんドクちゃんです。
1988年に日本人医師も招かれて行われた彼らの分離手術は大きな話題となりました。
親御さん世代でしたら、誰もが知っている有名な兄弟ですが、今の子どもたちの中に彼らを知る子は少ないのではないでしょうか。
ベトナム戦争時、アメリカ軍が大量に散布した枯れ葉剤。
ベトコン兵が身を隠していた森林と、南ベトナムの経済的基盤であった農業を破壊する目的で撒かれた枯れ葉剤には、高濃度のダイオキシンが含まれていました。
枯葉剤の影響を受け、奇形を持つ新生児が沢山生まれてきたのです。ベトちゃんドクちゃんはその一組です。
彼らは1981年、ベトナム中部の村で下半身がつながった結合双生児として生まれてきたのでした。
その地域は、ベトナム戦争時に大量の枯れ葉剤が撒かれた場所なのです。
ふたりの誕生年を考えると、1973年のアメリカ軍撤退後10年近く経ってからも薬剤の影響があったことがわかります。
1988年、二人が7歳の時、ベトナム人医師70人、日本人医師4人という医師団を編成しての17時間に及ぶ分離手術が行われました。
手術は成功し、兄のベトちゃんには左足、弟のドクちゃんには右足がそれぞれ残されました。
この本の著者は弟のドクちゃん。現在はもう38歳になり、ご結婚されお子さんもいらっしゃるので、「ドクさん」と呼ぶのがふさわしいかもしれないですね。
しかし2007年、二人が26歳のとき、残念ながら兄のベトさんは腎不全と肺炎の併発により亡くなりました。
この本は、ドクさんが2001年に20歳の記念に書かれたもので、彼の青春の日々が飾らない言葉で語られています。
生い立ちのこと、趣味や勉強のこと、気になる女の子や寝たきりとなった兄への思い。 20歳になったドクさんが、今の自分と兄のことを綴った初めての本 です。
全てが等身大で、思春期を迎えようとする子どもたちが共感できる内容となっています。
ドクさんは、身体的なハンディキャップが理由で小学生時代にいじめをうけたことも告白しています。
しかし、ありのままの自分を受け入れることで少しずつ、助けてくれる友達ができていったと語ります。
そして、本書の中でも特に力強く語られるのは、ベトナム戦争の悲劇と平和への思いです。
犠牲となった人々、そして愚かな戦争を決して忘れてはならないと訴えます。
ベトナムとアメリカは1995年に国交正常化し、両国の関係は経済面を中心に進展しています。
そして2000年の11月、当時のアメリカ大統領クリントンがベトナムを訪問した際に語った「忌まわしい戦争は、過去のこととして忘れましょう」という言葉に、ベトさんは違和感を感じたと言います。
罪のない人々があれほど傷つけられ、命を落とし、今もなお消えることのない苦しみに苛まれているというのに、忘れられるわけがないではないか。きっとそう思ったことでしょう。
しかし、ベトさんの訴えはただ、アメリカへの責任追及をして終わりではないのです。
ベトさんは、今なお世界中で繰り返される戦争に心を向け、過去の悲惨な戦争がなぜ起きたのか、過去を忘れず学ぶことで、惨劇を繰り返さないようにするべきだと訴えます。
そこには、ベトナムに伝わる古い言葉からの影響が伺えます。
「過去を忘れず、されどうらまず」
米軍が散布した枯れ葉剤によって、障害を持って生まれたベトさん。
しかし、自分がこうして生きているのは、戦争の悲惨さを世界中に、そして後世まで伝えるためだといいます。
枯れ葉剤の影響が、子の世代、孫の世代まで繋がっている現実に、終わることのない戦争を実感するベトさん。
しかし、過去のことをいつまでも恨み続けない姿勢が、私たちにこの言葉の素晴らしさを教えてくれます。
お子さんの小さなせまい世界にも、日々色々なことがあると思います。
理不尽なことで親や先生に叱られたりすると、何日も嫌な気持ちを引きずってしまいますよね。
そんな時もあります。ちょっと落ち込んで、泣くのもいいでしょう。しかし、いつまでもそうしていては、次に進もうという気持ちを無くしてしまうものです。
それだけではなく、毎日どこかに転がっている幸せを見逃してしまうのです。
恨みや憎しみとは恐ろしいもので、新たな憎しみ以外には何も生み出しません。
ベトさんは、戦争による障害を持って生まれ、様々な差別に向き合う中で、そのことを学んできたのだと思います。
それでも希望を捨てず、平和の使者として精一杯の青春を生きる彼の姿勢から、少しでも何かを感じてもらえたらと思います。
やる気が出てくる世界の言葉:「過去を忘れず、されどうらまず」
「心はつながっている」/グェン•ドク著 グェン•ファン•フォン訳
参考文献:「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?
ーベトナム帰還兵が語る『ほんとうの戦争』」/アレン・ネルソン著
あわせて読みたい
おすすめコンテンツ
この記事を書いた人
藤原 望(ふじはら のぞみ)
1993年生まれ。埼玉県出身。大学卒業後は福祉施設に勤務するが、社会人5年目で一念発起し文章を扱う仕事を目指す。この世で好きなもののトップ3は本、映画、お酒。