仕事・働き方

「しまねのネタ本」はこうして生まれた!島根県広報室がユニークな取り組みをおこなう理由

2020.01.24

しまねのおもしろ・おかしい魅力が満載な「しまねのネタ本」、島根を裏からこっそり応援するサイト「リメンバ~しまね」など、数々のユニークな取り組みをおこなう島根県。 おもしろい企画がうまれた背景には、島根県⺠の「県⺠性」と⼤きな「やる気」が関係していました。島根県広報室の担当者さんに、その秘密を直撃します。

筆者は島根県松江市出身です。この島根県というのは、「どこにあるのかわからない県ナンバー1」として有名な県で、おまけに「何があるかもわからない」。上京したてのころは「あ~、わかるよ!砂丘があるところでしょ?」と、自己紹介をするたびに言われていたものです。※砂丘はお隣の鳥取県です

出雲大社や宍道湖、松江城、石見神楽・・・。たくさんステキな観光資源があるのに、いまいち認知度が低い島根県。シャイな県民性もあいまって、真正面からPRすることもできない。そんな葛藤を繰り返していたところ、筆者はあるアイテムに出会いました。

それが、島根県広報室が作る「しまねのネタ本」。しまねSuper大使として活躍している「秘密結社鷹の爪」シリーズの人気キャラクター・「吉田くん」が、しまねの魅力を真摯に伝えるというものです。

一度開いてみると、ページをめくる手が止まりません。「県名より、出雲大社の方が有名」「大きさの基準は松江城○個分」など、誰もが笑えるおもしろいキャッチコピーから、県民でも知らないようなニッチな情報までてんこ盛り。ページのすみずみから、制作にかかわった島根県のみなさんのものすごいやる気を感じます

島根県ってこんなにおもしろいところだったのか!これを知っていたら島根の魅力をもっと伝えられたのに!と、嬉しいやら悔しいやら。いてもたってもいられなくなった筆者は、制作した島根県広報室に乗り込むことにしました。どんなふうにしてこの本は誕生したのだろうか・・・。

お話をうかがう人

島根県広報部広報室

俵純子さん

広報の仕事は
「地元の人々の目」から


やる気ラボの勝部です。本日はよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

早速ですが、「しまねのネタ本」めちゃくちゃおもしろかったです。とてもユニークな視点から書かれていて、周りの⼈たちに紹介したくなる内容でした。

それです!まさにそれが、この本を作った理由なんですよ。

と、言いますと・・・?

私⾃⾝、島根県の出⾝なのですが、県外で⾃⼰紹介をする時に「出雲⼤社がある」「宍道湖の⼣⽇がきれい」くらいしか⾔うことができなかったという苦い経験があります。
だから今の学⽣には、進学・就職の際にふるさとの魅⼒を話せるようになってもらいたいという思いで、このネタ本を作ったんです。

なるほど、そういう理由だったとは。
制作には県内の高校生も携わったんですよね?

そうです。ネタ本を作るにあたって、県東部・⻄部・隠岐の三会場で「島根県意⾒交換会」を開いたのですが、県内の12校からたくさんの⾼校⽣が集まってくれたんです。皆さん笑顔でさまざまな意⾒を出し合っておられて、「ああ、地元のことが好きなんだな」と感じました。「地元のことを知ってもらいたい」というやる気に満ち溢れていたんです。

地元のことを知ってもらいたいという気持ちは誰もが持っていると思うのですが、「意見交換会」のようにそれらを紹介できる場があるとますますやる気につながりますよね。
具体的にどの辺に彼らのやる気を感じられましたか?

「こういう観光地がある」というお話に加えて、そこで暮らしている県民の皆さんの魅力を、リアルに語ってくださったのが嬉しかったですね。

「県民の魅力」ですか?

そうです。
例えば、⽟造温泉駅の話ですね。この駅にはエレベーターがないのですが、「外国⼈や観光客が⼤きな荷物を持っていると、通りすがりの地元の⼈たちがどこからかやってきて親切に運んでくれるんですよ!」と、ある高校生さんが熱く語ってくれたり、

ふむふむ。

一大観光地の「玉造温泉」
駅のバリアフリーは遅れていても、心のバリアフリーが充実している

「隠岐の島では、ご近所さんからの野菜や魚のおすそ分けが、家に帰るとあたりまえのように置いてあるんですよ!」と教えてくれたり。

おすそ分け・・・!

まだまだいくらでも出てきます。こんな意見を出し合っている時、彼らはすごくイキイキしていたんですよ。

すごい。ネットや雑誌には載っていない観光情報ですね。
でも、どうして⾼校⽣にネタを考えてもらおうという発想になったのでしょう?

行政の目だけで作ると、本当に使って欲しい学生にとって縁が遠いものになってしまうと思ったんです。おもしろくないものになってしまうなって。だから、彼らの目線で作りたいと思いました。
例えば、奥出雲町の「鬼の舌震」。『出雲国風土記』神話に由来する大渓谷なのですが、その事実をただ紹介するだけではつまらない。女神目線の「あなたのこと川、せき止めるくらい嫌いなの」というキャッチーなコピーをつけることで、話しやすく、また多くの人に関心を寄せてもらいたいと考えました。

しまねSuper大使吉田くんのイラストと謝罪(いいわけ)が、さらに良い味を出しています。

海岸に浮かぶ姿がまるでフランスの世界遺産のよう!?
宇宙人の通訳はお任せあれ

また、たくさんの市町村の方たちにも協力してもらいました。ふるさとの魅力を再確認し、自分の言葉で良いことを語るという経験は、今後の生活にも活かされていくのではないかと思います。

県の広報室だけではなく、県⺠全体で作った感覚。しまねのネタ本が「おもしろい」と感じる理由は、県⺠の「紹介したい!」というやる気が反映されていたからなんですね。
周りの反響はいかがでしたか?

学生さんには、とても笑ってもらいました。
また、新聞社やテレビ番組をはじめ、いろいろなところから問い合わせがありました。「欲しいんだけど、どこで手に入るんですか?」という、一般の方からの問い合わせもとても多かったですね。

⾒ているだけでも楽しいですもんね。これがあれば、⾃信とやる気を持って「⾃分は島根県出⾝だ!」と⾔える⼈が増えるかもしれません。

県内の高校生や市町村の皆さんと協力して作っている時は、ワクワクしてしかたがなかったそう

「県民性」を大事に


島根県は「しまねのネタ本」の他にも、「リメンバ~しまね」というウェブサイトを運営しています。こちらは、島根県をこっそり応援する人たちのサイトなんだとか。

はい。島根県をこっそり応援するサイトです。島根県出身者でもそうでなくても、島根に行ったことがあってもそうでなくても、島根を応援したい!応援してみよう!という気持ちがあれば、どなたでも団員登録できます。

どうして「こっそり」なんですか?
しかも「リメンバ~(忘れないで)」って(笑)

この名前は、島根県の県⺠性をあらわしているんです(笑)

「県民性」ですか・・・?

島根県の⼈は、「すごく良い!」と⼝に出すことを恥ずかしがる⼈が多い。ホットな熱意を持って、グイグイ出てくるという感じは合わないんです。でも、ネタ本の時もそうだったように、やる気は⼈⼀倍持っています。だから「こっそり」というテイストにすれば、県民の皆さんが話しやすいと思ったんですよ。

なるほど。「リメンバ~しまね」は、そんな皆さんの「シャイなやる気」をアピールしているんですね。
団員登録をすると、どのような特典があるのでしょうか?

サイト内で団員同士が情報を交換し合えたり、島根の応援活動に参加すると島根の特産品やランクアップグッズをゲットできたりします。
また、「しまねのネタ本」では紹介しきれなかったネタを、ここでは100近く見ることができるんですよ。

しまねのネタ情報が、ここにすべて詰まっていると言っても過言ではないですね。

なんと70パーセント以上が非島根県民。県民意外にも愛されるサイトだ

吉田くんは
島根県のヒーローだった!?


島根といえば「吉田くん」。吉田くんといえば「島根」というイメージが定着していますが、そもそも「しまねSuper大使」とはいったい何者なのですか?

本名は「吉田“ジャスティス”カツヲ」
しまねSuper大使吉田くん ©DLE

Super大使とは、親善大使や観光大使を「超えた」存在であるらしいんです(笑)
観光情報はもちろん福祉的なテレビ番組まで、島根県のありとあらゆるものを吉田くんが紹介してくれるんです。

なぜ吉田くんがそのポストに選ばれたのでしょうか?

「秘密結社鷹の爪」シリーズの原作者であるFROGMANさんが島根県にゆかりのある方で、「【最もどこにあるかわからない】と言われた島根県を、もっと多くの人に知ってもらいたい」と、「島根は鳥取の左側です」というTシャツを自ら作って知事にプレゼントしてくださったんです。そんなご縁もあり、2008年から島根県吉田村(現雲南市)出身でもある吉田くんを、広報に使わせていただくことになりました。
県外でも人気があるキャラクターなので、認知度の向上につながると期待しました。

県民の反応はいかがでしたか?

ごくまれに「顔が怖い」という意見もありますが(笑)
圧倒的に好意的な意見が多いので、どんどん出して慣れていただこうと思います(笑)

しかめっ面ですし、一見すると怖く見えるかもしれませんが、見ているうちにどんどん引き込まれていくんですよね。気づいたら僕も、デスクの上が吉田くんグッズでいっぱいに・・・(笑)
実際に、認知度や売り上げなどの向上につながっているのでしょうか?

島根県の民間企業に使っていただいたら売り上げが何割アップしたとか、吉田くんのパネルを店先に置いたらお客さんとのコミュニケーションにつながったとか、幸いなことに良い話ばかりいただいていますね。

失敗知らずとは(驚)
吉田くんって、すごいお方だったんですね・・・!

町を歩くと吉田くんに出会えるかも!?

「みんなで作る」が合言葉


広報の仕事をする上で、心がけていることはありますか?

県のお仕事は、どうしても「発信して終わり」の部分があり、県民と直接つながりのない部門もあります。しかし、広報は県民の声がいちばん聞ける部門。そういった特性を活かし、人とのつながりを大事にしています。

俵さんのお話の中には、一貫して「県民の声を聞く」ことが含まれていますね。

⾃分が良いものだと思っていても、県⺠が「良いね」と⾔うものじゃないと意味がないですからね。いろいろな⼈たちの声を拾いながら、⼈の⼼や⾎が通っているものを取り上げていく、そして県⺠の「やる気」を反映させる場を作っていく、それが私たちの仕事だと思っています。

最後になりますが、島根県をこれからどういう県にしていきたいのか、一言お願いします。

県民の皆さんに、ふるさと島根は素晴らしいという気持ちを再確認してもらい、外に向かっても島根県ってステキだよと発信してもらいたいです。そして、多くの人たちに来てもらい、みんなで一緒に島根を盛り上げていきたいですね。

僕も、地元・島根県を外からの視点で盛り上げていきたいと思います。
ありがとうございました!


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この記事を書いた人

勝部晃多(かつべ・こうた)

やる気ラボの娯楽記事担当。23歳。ハウストラブルコラムやIT関連のニュースライターを経、2019年8月より現職。趣味はプロ野球・競馬観戦や温泉旅行、読書等と幅広いが、爺臭いといわれるのを気にしているらしい。性格は柴犬のように頑固で、好きな物事に対する嗅覚と執念は異常とも評されている。

 
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