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子育て・教育
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きかんしゃトーマスの教育的効果について、東京学芸大こども未来研究所にインタビューしました。
200話以上のアニメーション分析から見えてきたのは、子どもたちをやる気にさせる「小さな社会体験」。詳しくご説明いただいた内容を、まとめました!
こんにちは。やる気ラボの川崎です。
子どもって、きかんしゃトーマス大好きですよね。わが家の息子(2歳)もハマっています。
一日中、トーマス遊びにスイッチ入りまくり。家じゅうでトーマスのおもちゃを走らせたり、机の上にトーマスたちをズラッと整列させて「うっとり……」したりしています。
なぜこんなにも、トーマスは男の子のやる気スイッチを入れるのか…。
調べてみたところ、なんときかんしゃトーマスの教育的効果について研究した大学が日本にあるとのこと。これはお話を聞いてみたい。
東京学芸大こども未来研究所を訪ね、研究メンバーのみなさんにお話を聞きました。全3回でお届けします。第1回のテーマは「なぜ子どもたちは、きかんしゃトーマスに夢中になるのか?」です。
#1 子どもたちはなぜ「きかんしゃトーマス」に夢中になるのか。東京学芸大学の研究所が見つけた答え
#2 トーマスの教育的効果は、子どもの“非認知能力”にあり! 「このキャラが好きな子は非認知能力が高い」はあるのか?
#3 子どもに“分かってもらう”必要はない。親としての「きかんしゃトーマス」でのより良い接し方
おもな研究メンバーのみなさん
東京学芸大学准教授
正木 賢一 先生
東京学芸大学准教授
南浦 涼介 先生
東京学芸大学講師
森尻 有貴 先生
2歳の息子、「きかんしゃトーマス」が大好きなんですよ。今日は個人的にもすごく楽しみにしていました。
子ども、みんな大好きですよね。僕も、トーマスの研究をはじめたころちょうど息子が4歳だったんです。
うちも同じですね。そのくらいの年齢で。
そうなんですね! すごい人気ですよね、トーマス。
まあ、卒業しちゃったんですが(苦笑)
そんなー。
ひとつも見なくなりましたね。うちのも。
みんなパタッと卒業しちゃうそうですね。
うーん。なんでだろう。考えてみるとこれも不思議な現象だなぁ・・・。
ともあれ、そんな個人的な背景もあって、「なぜトーマスは子どもを夢中にさせるのか?」は、研究テーマとしてたいへん興味があったんです。それでこのメンバーを中心に、研究を進めていきました。
その結果見えてきたことの一つが、子どもたちはトーマスを通して“小さな社会”を楽しく追体験しているんじゃないかということです。
“小さな社会”――ですか?
はい。どんな研究をしたのか、説明していきますね。
今回は大きく分けて三つの研究を行ったのですが、その一つは「きかんしゃトーマス」のアニメーションの分析です。実際に視聴し、それぞれのお話が何をテーマにしているのかを読み解いていきました。
それ、とても大変ではないですか? いま、たしか第22シリーズの途中ですよね…。
今回は、近年放送されているCGアニメーションのものにしぼって分析していくことにしました。放送当初のトーマスは、鉄道模型のジオラマを使った人形劇のような形式だったんですけど、そちらは対象外としています。
あ、そうなんですね。
思い返すと、僕が子どものころ見ていたトーマスって、そっちのジオラマ模型版でした。
ですので、最近子どもといっしょになって、ひさびさにトーマス見るようになっていちばん驚いたのそこです。おまえCGになったのかと。
■日本国内での放送の時系列
昔のはAmazonプライム・ビデオなどで見れますが、 いまのCGアニメとはまた異なる、素朴な味わいです
ここ10年ほど、トーマスはCGなんですよ(笑)
現行の第22シリーズは除外して、第13~21シリーズが対象です。
ざっくり半分くらい。それでも、かなり多そうですね。
計204話です。
多いッッ!
多かったです。それぞれのお話が何をテーマとしていて、ほかのお話とどうグルーピングできるのか、そもそもどんなグルーピングをすればいいのかといったことをメンバーでひたすらディスカッションしました。ホワイトボードにいろいろグシャグシャに書き込んだりしながら。
果てしないですね…。
議論の結果、最終的には二つの軸に落ちつきました。
この二つです。
「理解」と「関わり方」…。
そのうえで、こまかい区分けをつくって、この図のようになりました。
きかんしゃトーマスの204話、どのお話も漏れなくこの分類でまとめられる、ということですね。
うーん…。
「私」「他者」はともかく、この「場」ってどう考えればいいんでしょうか?
トーマスのおもしろみを説明するには「私」「他者」だけだと足りないんです。なぜなら、それらはあくまで個人のやりとりでしかないからです。
きかんしゃトーマスには、トーマスやジェームス、ゴードンたちが暮らし、働く、「場」があるんです。
と言うと……集団・組織としての関係性ということでしょうか?
そうです。さまざまなキャラクターが集団・組織となって働く。そんな「場」では、役割が生まれます。
トーマスたちのように列車という役割があれば、トップハム・ハット卿のように列車たちを管理・監督する役割もある。もっと掘り下げると、列車たちのなかにも急行列車、貨物列車、ディーゼル車、牽引車といったさまざまな役割がある。バスやクレーン、ヘリコプターといった役割をもつキャラクターもいる。
それぞれの立場から考えたり行動したりして、マジメに働いたりサボったりして、時にはトラブルも起こすし、力を合わせて解決もする。
社会の縮図だ…!
すごく社会的なんですよ。ここに特徴があると思っています。
きかんしゃトーマスは子どもたちに、とてもいい社会のモデルケースを示していると思います。小さな社会を再現して、そこで起こるさまざまなことを子どもたちに語りかけているんです。
代表例として、第14シリーズ「パーシーはパーシー」というお話をまとめた図。「ゴードンのようになりたい」と思ったパーシーが「いつも通りの自分でいいんだ」と気づくまで、さまざまなコミュニケーションがなされています。単に周囲に溶けこむという「個」のあり方ではなく、自分らしさをもつ存在として「社会参加」する大切さも示されています
すごく、大人の世界を覗いている感ありますね! いろいろなパターンの社会活動を、アニメを見ながら自然に体験できると。
そして、子どもたちは「きかんしゃトーマス」のおもちゃで、そうした社会体験を自分の手で「再現」できます。
「再現」…ですか!
そうです。ゴードンがこんな失敗をして、パーシーがフォローして、はたまた次のお話ではジェームズが…といったもの。子どもたちが映像を見たときの残像が頭の中に残っているうちに、それを試してみるんです。
今回の研究では計9回にわたって、3~5歳の子どもが「きかんしゃトーマス」のおもちゃなどで遊ぶ姿を分析させてもらったのですが、子どもたちって本当にトーマスで幅広い遊び方をしますよね。
走らせたり、レールを構成したり、アニメのストーリーを追いかけたり、オリジナルのストーリーを創ってみたりと、オールラウンドに子どもたちの遊びたい気持ちに答えられるのも、大きな強みだと思います。
そうした遊びから、子どもたちはいろいろなものを感じ取れそうです。
そうですね。
トーマスのアニメーションという小さな社会を目にしたことを、遊び場で、自分で試してみる。「自分ってこういう役割なのかな」「自分ってパーシーに似ているな」「ヒロ、僕の友達に似てるな」と、自分がこの社会においてどんなふるまいが合っているのか、考えるきっかけにできる。
子どもたちが夢中になれる、やる気になれる社会体験として、きかんしゃトーマスという世界はとてもよくデザインされていると思います。
ただ、子ども向けアニメってむしろ、トーマスとは真逆のものが人気というか、一般的じゃないですか?
もっと派手に悪者と戦ったり、ビーム出したり、変身したり、爆発したり、巨大ロボットに合体したり、世界がどうのこうのする大事件が起こったり…。
ほかと比べて、素朴なアニメーションなんですよね。それもユニークだと思います。派手なことは起こらない、落ちついた世界なので、キャラクターのちょっとした心の動きなどが、くっきりと見られる。
海外の研究では、きかんしゃトーマスの「落ちついた背景や音楽」 「シンプルなお話の構造」 「スケジュール通りに決まったレールを走る<列車>」といった要素が、自閉症児の“セキュリティ・ブランケット(安心毛布)”になると考えられています
資料:“Do children with autism spectrum disorders have a special relationship with Thomas the Tank
Engine and, if so, why?”(2002, The National Autistic Society)
トーマスは他のキャラクターアニメのそれとは異なっていて、単純なファンタジーの構造ではないのも大きな特徴です。
もちろん機関車に顔がついてしゃべっている時点でファンタジーではあるんですけど、あくまで社会生活の延長上にあるファンタジーなんです。
たぶん、子どもたちにとっては、本当に山手線の横をトーマスが走っていてもまったく不自然じゃないんですよ。 僕の子どもがまさにそうだったんです。
そんな“リアルなファンタジー”だからこそ、夢中になるのかもしれませんね。
(第2回につづく)
#1 子どもたちはなぜ「きかんしゃトーマス」に夢中になるのか。東京学芸大学の研究所が見つけた答え
#2 トーマスの教育的効果は、子どもの“非認知能力”にあり! 「このキャラが好きな子は非認知能力が高い」はあるのか?
#3 子どもに“分かってもらう”必要はない。親としての「きかんしゃトーマス」でのより良い接し方
(c)2019 Gullane (Thomas) Limited.
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この記事を編集した人
川崎 健輔
1987年生まれ。教育業界のWeb編集者です。2歳息子の育児、奮闘中。小学生時代はゲームボーイと受験勉強ばかりやっていました。最近はリモートワークが続いているので甚平を仕事着にして頑張っています。バームロールを与えられると鳴きます。
(Twitter ▶ @kwskknsk)