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「子育て心理学」の連載では、子どもの成長&やる気アップに役立つ心理学知識を、子育てにお悩みの保護者の皆様に向けてわかりやすくお伝えしています。 第2回は「子どもの知能」がテーマです。子供の知的な才能の見つけ方を、ハーバード大学教授ハワード・ガードナーの「多重知能理論」をもとに考えます。
「あの人、頭がいいな」と思うことがありますよね。あるいは、「もっと頭がよかったらいいのに」とか、「頭がいい人は違うわね」とか誰かが言うのを聞いたことがあるかもしれません。頭がいい人に憧れたり、我が子の頭がよくなることを願ったりすることは、よくあることなのではないかと思います。
そもそも「頭がいい」とはどういうことでしょうか?「それは、いろんなことを知っている人のことでしょ」と言う方がいそうですね。「やっぱり、テストでいい点とれる人だよ」と思った方もいるかもしれません。「頭がいい」にも、いろんなイメージがありそうです。
頭のよさは、「知能」の問題として考えられてきました。頭がいい人は、高いレベルの知能をもっているということです。ただ、知能とは何なのかと問われると、実はけっこう難しいところがあります。
知能がどのようなものであるかは、研究者によって少しずつ意見が違っていて、あまりはっきりと定義されていません。おおまかには、問題を解決したり、新しいことを学んだりする力、あるいは考える力など、人がもつ知的な能力全般ということになっています。
「知能」そのものよりも、「知能指数」のことを耳にしたことがある人が多いかもしれませんね。IQのことです。かつて、学業不振の子どもを見つけるために、知能検査が開発されました。知能検査を受けてもらって、その結果からその子にどれぐらいの知的能力があるかを数値で示します(これがIQです)。アニメやマンガに「IQ○○の天才!」などと紹介される知的なキャラクターが登場することがありますね。
知能検査で測ったIQは、学校の成績とある程度関連することが知られています。つまり、知能指数が高い子ほど、学校での成績もよい傾向があるということです。
そうすると、「やっぱり、頭がいいのは、物知りでテストの点がいいってことなんじゃない」と思った方もいそうですね。でも、ちょっと待ってください。先ほど、知能をどう考えるかは研究者によって少しずつ違うと言いました。なかには、知能というものをもっと幅広く考えた方がいいんじゃないか、と言う人もいます。
ハーバード大学教授のハワード・ガードナーという心理学者は、知能にはいろんな種類があると考えました。従来の知能の考え方は、人の一部の能力に偏っていたのではないかと疑問を唱えたのです。
確かに、多くの知能検査は、言葉を使って論理的な思考を働かせながら解く問題が大半を占めています。なので、言葉を理解したり、論理的に考えたりすることに優れている人が、知能検査で高い点をとるでしょう。知能指数が高い人は、言葉の理解が得意で、論理的に考えることができるということです。国語や数学のテストも得意そうですね。
しかし、人の能力は、言葉を理解したり、論理的に考えたりすることだけではありませんよね。「人ってすごいな」と感じることは、もっといろんな場面であります。ガードナーは、人の知能として次のような8つの要素を考えました。
①言語的知能:言葉を理解したり、うまく使用したりする能力
②論理数学的知能:問題を論理的に考えたり、数学的に考えたりする能力
③音楽的知能:音楽的に優れた演奏をしたり、より深く音楽を鑑賞したりする能力
④身体運動的知能:目的のために自分の手指や体全体をうまく使う能力
⑤空間的知能:ものの配置や場所など、空間をうまくとらえる能力
⑥対人的知能:相手の心の状態を察したり、うまくやりとりをしたりする能力
⑦内省的知能:自分の気持ちや能力を理解し、生活に活かす能力
⑧博物的知識:自然のものや人工のものをうまく見分けたり、分類したりする能力
多くの知能を考えるので、多重知能理論(MI理論)と言います。
ガードナーは、それぞれの知能と職業との関係も述べています。ただ、子どものことを考えた場合に、あまり将来の職業のことを気にしてもいいことはないかもしれません。一人ひとりの子どもの得意なところを見つけるための視点だと考えた方がよいでしょう。
「でも、音楽が得意だからって、頭がいいって言っていいのかしら」と思った方もいるかもしれませんね。あるいは、「うちの子は、友だちは多いけど頭がいいとは…」とか。確かに、勉強ができたり、テストの問題が解けたりといった、従来の「頭がいい」のイメージとは違います。
でも、楽器をうまく演奏したり、曲のよさを深く味わったりするにはとても頭を使いますよね。あるいは、友だちのことを気遣ってうまくやっていくのも簡単なことではありません。いずれも人がもつ知的な能力のなせる業です。そういった文化的な面や人間関係の面を含めて、人がもつ知的な能力を幅広くみていこうというのが、ガードナーの考え方です。
こうやっていろんな知能を考えると、どんなメリットがあるでしょうか?そう、一人ひとりの子どものよさを見つけやすくなりますね。
当然、子どもによって得意なことや興味のあることは違います。今までだったら、言語や論理にかかわること、たとえば国語や数学が得意な子が「頭がいい」となっていたかもしれません。しかし、人の知能を広く考えてみると、いろんな「頭のいい子」が見えてきます。音楽が得意な子も、運動が得意な子も、人間関係をうまくやっている子も、それぞれに「頭がいい」のです。
さて、お子さんには、「“どんな”頭のよさ」があるでしょうか?あるいは、どんなところが少し苦手でしょうか?「頭のよさ」は一つの基準だけで決まるものではなさそうです。
まずは、一人ひとりの子どもがどのようなところが得意で、どのようなところが苦手なのかを幅広くみてみましょう。意外なすごさに気づくかもしれません。そのうえで、得意なところを伸ばすのか、苦手なところを克服しようとするのかを考えるのがよいでしょう。
「頭がいい」に“どんな”をつけて考えてみると、一人ひとりのよさがよくみえてくるかもしれませんね。
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この記事を書いた人
岡田 涼
香川大学教育学部 准教授。2008年、名古屋大学大学院教育発達科学研究科修了。11年、香川大学教育学部講師就任。13年、香川大学教育学部准教授、香川大学大学院教育学研究科准教授就任。現職。友人関係場面における自律的動機づけの役割や、学習場面における自律的動機づけなどを主な研究テーマとしている。