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仕事・働き方
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ナカセコエミコ
書評家、絵本作家、女性のキャリア・ライフスタイルを中心に本にまつわる事業を展開する「株式会社 FILAGE(フィラージュ)」代表。銀行員、図書館司書、一般企業の商品開発職を経て、2017年に会社設立。選書や書評、絵本制作などを行なう。2023年4月6日、東京都国立市に「書店 有給休暇」をオープン。
株式会社 FILAGE
「書店 有給休暇」クラウドファンディング※2023年2月末終了
「書店 有給休暇」
ビジネス書、ライフスタイル本、絵本、エッセイなど、日々の仕事や暮らしを整えるのに役立つ本、また雑貨や衣料品などがそろう。テイクアウト専門のコーヒースタンドも併設。
住所:東京都国立市中2-3-2双木ビル1階
営業時間:12:30 〜 18:00 ※不定休
アクセス:JR中央線「国立」駅南口より徒歩8分
ホームページ:株式会社 FILAGE
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――店名が「書店 有給休暇」ということで、印象的なお名前ですね。どのような思いを込めているのでしょうか?
その名の通り、有給休暇の日にふらりと訪れてほしいという願いを込めて付けました。
会社員の休みと言えば「公休」がありますが、これは会社が定めた休みなので社員なら必ず取りますよね。一方、「有給休暇」は労働者の権利として会社から用意されているもので、自由に取得できる分、意外と取りづらかったりします。有休制度がないフリーランスや自営業の方、家庭の主婦・主夫の方ならなおさら、自分のために休むことが難しいですよね。
「書店 有給休暇」は、そんな毎日を頑張る人に少しだけ休みを取ってリフレッシュしに来てもらいたいんです。実際に有給休暇を取らなくても構いません。「今日は自分に有休(お休み)をあげよう」という気分で足を運んでもらえたらうれしいです。
――素敵な由来ですね。どうしてこのような本屋をやろうと思ったのですか?
そもそも私は子どもの頃から本に関わる仕事をするのが夢でした。それは、私にとって本は自分を助けてくれる大切な存在だったからです。
――と言いますと?
幼い頃、大きな病気があるわけではないのに私は体が弱くて、熱を出すことがよくありました。それを自分では「なんでこんなに体調を崩しちゃうんだろう」とモヤモヤしていて。そんな私に親は、安静にしながらでも楽しめるようにと本を買ってくれたんです。『若草物語』や『赤毛のアン』を読んだことを覚えています。本を読むと、知らなかった世界を知ったり、行ったことのない場所に行ったような疑似体験ができたりして、気が晴れました。外で遊べない代わりに本のなかで冒険を楽しんでいたんです。
いろんなことを教えてくれる本の世界がおもしろくて、大きくなってからも本に親しみました。中高の頃には、図書室の本を3冊借りて、読み終わるとまた3冊借りるというサイクルで本にふれていましたね。進路や人間関係で悩んだときも本を頼りにしてきました。
――本はいつも身近にあったんですね。
だから自然と本の仕事に憧れるようになって。文芸書に親しんだことから小説家になりたいと思ったり、学校の図書館で働く人を見て学校司書になりたいと思ったりしていました。
司書のほうはその後資格を取って本気で就職を考えていたんですが、募集自体がなかなかなくて諦めることに。大学卒業後に就職したのは銀行でした。でもやっぱり憧れが消えなくて、しばらくしたらもう一度司書の採用を探して。その結果、契約職員としてある公立図書館の司書になりました。
ところが、やっとたどり着いた本に関わる仕事だったのに、やってみたら司書の仕事はしっくりこなかったんです。学校司書だったら生徒との関わりを通じていろんな本にふれられたかもしれませんが、公立図書館の司書は本の整理が主な仕事で、なんだかやりたかったこととはちがうと感じてしまって。3年間続けましたが、結局、Wワークをしていたもう1つの会社での仕事に本腰を入れることにシフトしました。
――その後、本の仕事をやりたい気持ちはなくなってしまったのですか?
いえ、その気持ちはずっとありました。「本当は本の仕事がしたかったんだ」と、会社の人にもよく話していて。そのたびまわりには「今さら忘れなさい」と言われていましたが(笑)。
一方で、変わらず本には事あるごとに助けられていました。とくにそれが顕著だったのは、30代になって仕事で管理職になったときです。
――詳しく聞かせてください。
女性の管理職を増やそうという社会の動きのなかで私は主任から係長、支社長と昇進しました。ただ、当時いた会社にはそれ以上の女性管理職がおらず、ロールモデルになる先輩がいなかったんです。目指すべきモデルがいないなかでプロジェクトの指揮を執り部下を育成するのは大変で…だんだんと私は壁にぶつかるようになりました。
単に仕事をするだけではすまされない。責任を持って事業と人を動かしていかなければならない。でも具体的にどうしたらいいのか。すごく頭を抱えましたね。このとき、ビジネス書をかなり読み漁りました。マネジメントを経験している人の著書などを読み、自分なりに消化して、仕事へと役立てていきました。
――本のおかげで課題を解決することができたと?
そうですね。課題解決の知識や知恵だけでなく、働くことに対する希望や勇気も本から与えてもらったような気がします。自分が管理職になって思いましたが、人が責任を持って健全に仕事を続けていくためには、こうした知識のアップデートや自己ケアが欠かせません。その気づきが今の「働く人への本屋作り」に繋がっているのだと思います。
ちなみに働く人は、仕事をしている人に限るわけじゃありません。仕事に就いていなくても子育てや介護など何かに一生懸命に取り組んでいる人はたくさんいますよね。私にとって働く人は「自分の役割を毎日精一杯頑張って回している人」だと思っています。
――会社をやめて本の事業へ繰り出す直接のきっかけは何だったのですか?
いつか何かできたらとコツコツ資金を貯めていたことや年齢的な理由もあるんですが、さらなる昇進に向けてのお話があったことが大きな理由ですね。そのお話をいただけたこと自体はありがたかったんです。でも受けたら後には引けないなと。
その会社ではある程度の役職になったら定年まで勤め上げるという社風が自然とありました。責任あるポジションについたからには、会社の中核を最後まで担ってくれということですね。それが理解できたから会社をやめることにしたんです。
ここまで昇進しといて途中で出ていくと会社にも、引き上げてくれた上司や後輩にも迷惑がかかる。それだけはしてはいけないと、退職を決意しました。
――退職してすぐはどんなことをしていたんですか?
ライターの仕事を始めました。やっぱり急に本の仕事はできないというか、何をやったらいいのかわからなかったんですね。一方で文章を書く仕事にも興味がありましたし、自分の経験値でできることをやろうと思って、働く女性向けに仕事まわりのコラムなどを書き始めました。
でもしだいに自分の経験だけではネタが足りなくなってしまって。そこでまた本を頼りにすることに。図書館司書の資格を持っていることを知った編集部から「書評はどうですか?」と提案されて、しばらくしたら書評の仕事をメインでするようになっていきました。
――本に関する仕事ができるようになったんですね。
書評を書いた際は、取り上げた本をInstagramでも紹介するようにしました。するとそれがけっこう評判がよくて、フォロワーがたくさん増えるように。このとき、働く女性向けに本を紹介するのはニッチだけどニーズがあるのだと感じました。それでちょっと試しにと、「季節の本屋さん」という名前で働く女性のための選書サービスをやってみることにしたんです。
――具体的にはどんなサービスですか?
季節や月ごとのテーマに沿って選書した本を組み合わせて送付する、本の定期便です。
――選書サービスといえば、事前にヒアリングをしてその人に合った本を紹介するスタイルもありますが、そうはしなかったんですね。
はい、あえてそのスタイルは取らなかったんです。というのも、働く女性もとい大人の女性は、仕事や子育て、介護などに追われて忙しい方が多く、ヒアリングの時間はむしろ煩わしいのではないかと考えたからです。私自身もそうでした。
先ほど、管理職になり立ての頃に本に助けられた話をしましたが、じつはそれ以降は全然本にふれられなくなってしまって。朝から晩まで打ち合わせと商談、自分の作業は夜からと、一日中タスクが埋まっていて、本屋に行く時間もなければAmazonを見る時間もない状況でした。また、仕事で決断することが多い分、プライベートでの選択を1つでも減らしたいという気持ちもありました。本を選ぶこと自体が煩わしくなってしまったんです。
――「季節の本屋さん」ではおまかせスタイルにすることで、利用者の選ぶ手間を省いたのですね。
もう1つ、このスタイルを取り入れた理由があります。それは会社員時代に、何が届くかわからないワクワク感を味わったことです。
仕事の付き合いである通販カタログを利用していたんですが、それが毎月1回届くスタイルで、好みのシリーズを選んだらそのなかの商品が1種類ずつ送られてくるというサービスでした。ただ、利用者はどの月にどの商品が送られてくるかわからないんです。その開けるまで何が入っているかわからないところがおもしろくて。毎月お楽しみ袋を待っているようでした。「季節の本屋さん」も、利用者の方にこうした楽しみをお届けしたいと思ったんです。
――実際に選書サービスを始めて、反応はいかがでしたか?
狙ったわけではなかったんですが、サービスを始めたのがちょうどコロナ禍で、家で過ごす人が増えた時期だったんです。そのため思いがけず多くの方にご利用いただきました。「心が塞いでいるときに、選書セットが届いて気持ちが上向きになった」などうれしいお声もいただいて。やってよかったと思いましたね。
――逆に大変だったことは何でしょうか?
ひとりで経営判断をしていくことですね。会社で働いていたときは基本的にチームで物事を判断していましたから、自分だけで大きな決断をしないといけないことが難しかったです。もちろん同じように事業をやっている人に相談したりもするんですが、まったく同じ事業で同じ悩みを持っている人っていないですし、やっぱり最終的には自分で決断しないといけません。
――プレッシャーのかかることですよね。何か工夫などはされたのですか?
即決しないよう意識しました。タイムリミットまで人に意見を聞いたり、数字など客観的材料を集めたりして、じっくり自分の考えをまとめるようにしたんです。直感で決める経営者の方もいると思うんですけど、私はあまり自分の直感を信じてないのでそれはやりません(笑)。
ただ思えば、じっくり検討するやり方は、会社員時代に培われたスキルなんです。チームで議論を重ねること、データを集めることを私は組織のなかで長くやってきました。だから私には意見や情報を吸収して答えを出すやり方が合っているのだと思います。
「書店 有給休暇」もひとりで全部準備しているようで、そうじゃないんですよ。いろんな人と組んで意見を交わしながら進めています。じつは店名やコンセプトも私ひとりの発想ではないんです。
――そうなんですか?
そもそも店名は「季節の本屋さん」のままにしようと考えていました。でも、今回の書店開業をプロデュースしてくださっている「ニジノ絵本屋」のいしいあやさんやナカタケンスケさん、イラストレーターのうのまみさんと話すうちに、自分の作りたい本屋像が明確になって、新しい名前が出てきました。それが「書店 有給休暇」です。
きっかけはお三方のうちの一人が「ナカセコさんは働く人が休める場所を提供したいんですよね」と仰ったことでした。その言葉に私ははっとして。たしかに社会人になってからの私にとって、本屋は自分を休める場所でした。
20代後半で結婚して仕事と家事の両立が大変になったとき、時間を見つけてお気に入りのブックカフェで息抜きしていましたし、管理職になって本を選ぶ暇がなかったときでも、出張や外回りの合間にコーヒーの香りがする本屋に駆け込んで、本を眺めて心を落ち着かせ調子を整えていました。そうした時間を少しでも持てたから仕事にも家事にも全力で打ち込めたのだと思います。だから自分が作る本屋も、忙しく働く人の憩いの場にしたかったんですね。
――ナカセコさん自身が休憩の大切さを経験されていたからこの名前になったのですね。
休憩といっても、すごく頑張ったあとに取る休憩がとくに楽しいんですよ。だからめまぐるしい生活を送るなかで緩急をつけるようにうちの書店を利用してもらえたらと思っています。
こちらも店をただのんびりと休める場所として提供するのではなく、「頑張っている人を応援する場所」であるようにしたいと考えています。訪れた方が自分を整えて、また次も頑張りたいと思ってもらえるように。そのために空間作りや商品ラインナップにこだわっていきたいです。
――毎日を頑張る人のための居場所作りですね。
コロナ禍で本屋がどんどん閉まっているので、私のように本屋を心の避難所にしていた人は拠り所がなくなっているんじゃないかと思うんです。だからこそ自分が作りたい。ずっと本の仕事をしたいと思ってきましたが、今では「やりたい」よりも使命感のような思いを抱いています(笑)。といっても、ひとりで突っ走るのではなく、今まで経験を総動員して多くの人の意見に耳を傾け、自分の信念と照らし合わせながら挑戦していきたいと思います。
――ありがとうございました!
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この記事を編集した人
ほんのまともみ
やる気ラボライター。様々な活躍をする人の「物語」や哲学を書き起こすことにやりがいを感じながら励みます。JPIC読書アドバイザー27期。