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お父さんお母さん「子どもをご褒美で釣るようなこと、あんまりしたくないんだけど、なかなかやる気になってくれないしなぁ…。ご褒美をあげてもいいタイミング、あげちゃいけないタイミングってあるのかな?」
ソフトウェアと意欲を研究する坂本一憲先生が、そんなギモンに答えます!
みなさん、こんにちは。坂本です。
本記事では、「子どもへのご褒美の上手なあげ方」についてまとめています。
動機づけにおいて、報酬(以下、ご褒美)は切っても切れない重要な概念です。
研究結果をベースに、きちんとした根拠のある情報をお届けしますので、じっくりご覧いただけますと幸いです。
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まず結論からのべると、ご褒美によってお子さんのやる気を引き出すことは可能です。なんだかんだ言っても、人はご褒美によって動くもの。必ずしも、ご褒美をあげてはいけないということはありません。
ただし、「悪いご褒美のあげ方」と 「良いご褒美のあげ方」 はあります。
まずいやり方をしてしまうと、かえってお子さんのやる気が失われることもあるのです。
👤<いや、そんなの困るよ!!!
そうですよね。では、どうやって、お子さんに正しくご褒美をあげれば良いのでしょうか?
「上手なご褒美のあげ方」について考えていきましょう。
たった一つ、シンプルな条件です。
子どもが自分から、楽しく頑張っているとき
なぜなのかは、少し後で深掘りしますね。
良いご褒美のあげ方は、研究者の間でも論争が続いています。しかし、おおむね以下のどれか1つを守っていれば良いという研究結果が支持されています。
1️⃣サプライズであるとき
2️⃣モノではなく褒め言葉であるとき
3️⃣行動ではなく成果へのご褒美であるとき
4️⃣もともと興味がないことへのご褒美であるとき
それは「内発的動機づけを低下させてしまうから」です。
子どもが自発的に、楽しそうに勉強や遊びに取り組んでいる。これを心理学の世界では「内発的動機づけ」と呼んでいます。
逆に、ご褒美などを目当てに何かに取り組むことを「外発的動機づけ」と言います。詳しくはこちらの記事にまとまっています。
せっかく子どもがすすんで楽しんでやっているのに、そこで間違ったご褒美の与え方をしてしまうと、子どもは次から“ご褒美目当て”で取り組むようになってしまう。
内発的動機づけが低下し、外発的動機づけが高まってしまうのです。
これを「アンダーマイニング現象」といいます。
自由時間にお絵描きをする幼稚園児を複数のグループに分け、お絵描きをしたことに対するご褒美として、賞状をあげるグループとあげないグループを比較しました。
その結果、賞状をあげないグループは自由時間でも楽しくお絵かきを続けていたのですが、賞状をあげたグループは、賞状がもらえない自由時間では、当初よりもお絵描きをしなくなってしまいました。
もともと、幼稚園児はお絵描きが楽しいからお絵描きをしていたのです。
しかし、賞状という外的なご褒美を与えたことによって、「楽しいからお絵描きする」という内発的な動機が、「賞状が欲しいからお絵描きする」という外発的な動機に置き換わったのです。
動機が置き換わってしまうと、もはや賞状なしではお絵描きをしなくなります。これが、報酬には依存性があると言われる所以でもあります。
👤<なるほど。ご褒美で釣るのはやっぱり良くないね
そう思うかもしれませんが、ちょっと待ってください。忘れてはならないのは「与えてもいいご褒美」もあるということです。
先ほどの実験で、次のような結果も見られました。
「お絵描きをしたらご褒美に賞状をあげるよ」と事前に予告したグループではアンダーマイニング現象が起こり、その後の自由時間にお絵描きをしなくなりました。
一方、予告をせずに賞状をあげたグループでは、アンダーマイニング現象は起こらず、その後の自由時間でお絵描きを続けました。
つまり、ご褒美があくまでサプライズなのであれば「賞状を貰うためにお絵描きをしよう」とは考えないのです。
これはつまり、賞状などの物をあげずに、「がんばったね」など言葉で褒めるということです。
ただし、褒め言葉であっても、行動をコントロールする意味合いを含めてはいけません。それは、報酬を目当てに行動するという外発的動機づけにつながってしまいます。
例えばテストの勉強を促すケースだと「1時間勉強したらケーキをあげる」のではなく、「テストで90点を取ったらケーキをあげる」としておくのをオススメします。
「テストで90点を取ったらケーキをあげる」 というのは、行動ではなく成果に対してご褒美をあげるというやり方です。そのため、報酬を目当てに行動する(1時間勉強する)という外発的動機づけは高まりにくくなります。
ただし、ご褒美のあげ方に一貫性が必要という研究報告もあるという点は覚えておいてください。
そもそも最初からやる気がないなら、ご褒美をあげても問題がないということです。
例えば、部屋を片付けることに興味がない子供に、部屋を片付けたことに対してご褒美をあげても大丈夫です。
内発的動機づけの強さが0であれば、0より小さくなることはないというわけです。
むしろ、最初はご褒美につられて部屋を片付けている子供が、片付けを通して部屋がきれいになることに喜びを感じ、内発的動機づけが生まれるという可能性があります。
以上を踏まえると、近年流行っているソーシャルゲームは、非常に上手くご褒美が設計されていることが分かります。
例えば、ソーシャルゲームには、ログインボーナスと呼ばれるご褒美があります。ログインボーナスはソーシャルゲームのアプリを開いたことに対してご褒美をあげる機能です。
ユーザーはゲームで遊ぶことに興味があるだけで、ゲームのアプリを開くこと自体には興味がありません。つまり、ログインボーナスは、もともと興味がない行動を促しています。
私が過去に研究開発した暗記学習用のスマホアプリでも、暗記できた成果に対してゲームのようなポイントをご褒美としてあげていました。
対戦機能では「相手が強すぎて、頑張ったのに負けてしまう」というケースを防ぐように工夫。理不尽にご褒美が貰えないという状況を避け、一貫して成果に対してご褒美を与えるようにしました。
ほかにも様々な工夫を凝らした結果、このアプリを使わないケースと比較して、二倍以上に学習量を増やすことに成功しました。上手にご褒美を設計すれば、子どもの学習意欲は引き出せるのです。
ゲーミフィケーションを始めとして、ゲームから学ぶことは多そうですね。皆さんも、もしゲームで遊ぶ機会があれば、ゲームのご褒美がどのように設計されているか意識してみてください。効果的なご褒美を考えるためのヒントが得られるかもしれませんね。
▶【参考】【ゲームニクスとは?】子どもが“ゲームをやりこむように”宿題をしたくなる方法
「ご褒美」5つのチェックポイント
✔ご褒美NG
1️⃣子どもが自分から、楽しく頑張っているとき
✔ご褒美OK
1️⃣サプライズであるとき
2️⃣褒め言葉であるとき
3️⃣成果に対するご褒美であるとき
4️⃣もともと興味がないとき
ソフトウェアと心の関係
#1 私がプログラミングで“やる気”になれる理由
#2 やる気の出し方、私たちがゲームから学べること
#3 「子どもにご褒美」はOK?NG?5つのチェックポイント
#4 ご褒美よりも有効な「罰」を有効活用するには?
#5 (後日掲載予定)
#6 (後日掲載予定)
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この記事を書いた人
坂本 一憲
WillBooster合同会社CEO. 研究者・教育者・起業家。早稲田大学 研究院客員准教授、国立情報学研究所 客員助教などを歴任。プログラミング教育やゲーミフィケーション、競プロ、ソフトウェアテスト、心理学(自制心・意欲)が好き。ゲームAIプログラミングコンテストも開催している。