生活・趣味

「Earthおばあちゃんねる」で話題のおばあちゃんYouTuber。愉しい暮らしのコツはできそうなことをすぐやってみること

2022.12.8

85歳で「Earthおばあちゃんねる」というYouTube番組を始めた多良美智子さん。飾り気のないひとり暮らしの日常を、10代の孫に撮ってもらい配信しています。年齢を感じさせないテキパキとした姿や、料理や趣味を等身大で愉しむ様子が多くの人の心をつかみ、チャンネル登録者数は2か月で1万人を突破。「こんなふうに年をとりたい」との声が続出しています。老いを受け入れつつどこまでも主体的に生きる多良さんの生きざまに迫りました。

 


 

多良美智子(たら・みちこ)

昭和9年(1934年)長崎県生まれ。8人きょうだいの7番目。戦死した長兄以外はみな姉妹。早くに母を亡くし、父と姉たちに育てられる。小学生のとき戦争を体験、終戦後はミッションスクールに通う。大家族だったため、ひとり暮らしを夢見て、高校を卒業後、大阪で就職。27歳のとき、前妻を亡くし10歳の娘がいる9歳年上の男性と結婚。2男をもうける。7年前に夫を見送り、以来ひとり暮らし。2020年、当時中学生の孫がひとり暮らしの日常を撮り、「Earthおばあちゃんねる」としてYouTubeにアップ。またたく間に人気チャンネルとなり、現在登録者数は15万人超。初の著書『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(すばる舎)が12万部のベストセラーに。

YouTube:Earthおばあちゃんねる

 

 

85歳で始めたYouTubeは元気の源。小ワザも知れて大助かり


  

――多良さんは85歳でYouTubeの動画投稿を始めたということですが、まずその行動力に驚きました。どのような気持ちで始められたのでしょうか?

 

ごく軽い気持ちで始めました。最初はコロナ禍でなかなか会えない親族に向けて、「私は元気に暮らしていますよ」とお手紙を出すようなつもりだったんです。それから、私には手芸や絵手紙などの趣味で作ったたくさんの作品があり、それらを動画に撮って残したいと思ったんですね。私が死んだ後、「おばあちゃん、よく作っていたよね」と家族に話してもらえたらいいなと。

 

――もともとYouTubeをよく見ていたんですか?

 

ええ。コロナ禍のおうち時間を過ごすのにいいと長男から勧められてスマートテレビを買ったのが始まりでした。そのテレビでYouTubeが見られると当時中学生だった孫に教えてもらって、すっかり夢中になったんです。

インテリアが好きなので、お家紹介の動画をよく見ていました。それでたくさん動画を見るうちに自分もやってみたい気持ちが出てきまして、孫に相談して、2人で「Earthおばあちゃんねる」を始めるようになりました。

 

最初に投稿した動画。撮影・編集はパソコンが得意な孫のあーすさんが行なう。

 

――動画に出演することに緊張感はなかったですか?

 

全然ありませんでしたよ(笑)。私はふつうのおばあさんですし、これまでの人生も他人に隠し事をすることなく、わりにオープンに生きてきましたから平気でした。そもそも身内に見てもらえればよくて、多くの人に見てもらおうなんて考えていなかったですしね。

 

――ところがチャンネル開設からわずか2か月で登録者数が1万人になったんですよね。

 

それは本当にびっくりしました! ただふつうの暮らしを撮ってアップしていただけなのに、思いがけず多くの方に見ていただいて。どうやらその「ふつう」なのがかえって良かったみたいですね。私が「すぐそこにいるおばあちゃん」に感じられるらしいんです。

そう仰っていただけたのは私にとっても良かったことでした。自分はとても特別な人間ではないので、ふつうの人と見ていただけると気が楽で、また今のまま自然体でいいのだと思えることができました。

お部屋紹介動画。投稿してまもなく160万以上再生された。

 

――YouTubeにはコメントの書き込みもたくさんありますよね。

 

そうなんです。男女関係なく幅広い年代の方からたくさんコメントをいただいて、とても励みになっています。小ワザを教えてくれる方もいて大助かりなんですよ。

 

――小ワザとは?

 

冷凍した小ねぎをパラパラに取る方法を教えていただいたんです! 私の動画は料理をする様子のものが多いんですが、その中でカチカチに凍った小ねぎを箸でガシガシつぶしながら取るところが映った回があったんですね。それを見た方から、刻んだ小ねぎを容器に入れたらキッチンペーパーをたたんでのせて、ふたをして逆さまに保存しておくといいという書き込みがあったんです。実際に試したら本当にパラパラに取ることができて感激! すごくいいことが知れたと思って友人たちにもおすすめしました(笑)。

 

小ワザを活かして手料理を楽しむ。

 

――軽い気持ちで始めたYouTubeによって、暮らしがより豊かになったんですね。

 

今ではYouTubeは私の元気の源です。最近は朝にコメントを読むのが日課なんですよ。「今日はどんなメッセージが来ているかな?」とすごく楽しみにしています。「動画を見て料理してみました」というコメントもすごく嬉しいです。お返事はできないんですけれど、すべてに目を通していて、日々勇気をもらっています。

 

なんでもすぐやる。できそうなことは見逃さない


 

――YouTubeを活用して暮らしを楽しんでいたところ、今度はその日常を本にするというお話があったんですよね。

 

2020年3月に、エッセイを発刊。
87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(すばる舎)

 

それもまた思いがけない出来事でした。最初は「私でいいのかしら?」と思ったんですけれど、87年間生きてきた自分へのご褒美と考えてお受けすることにしました。

 

――本によると、80歳のときにはピアスをあけたり、イギリス旅行へひとりで行ったりしたそうで、年齢に関係なくチャレンジする精神にまたまた驚かされました。

 

興味を持ったらね、すぐにやってみたくなっちゃうんです(笑)。自分では「すぐやる課」と呼んでいます。気持ちが熱いうちにどうやったらできるのかを探して、近づく方法があればすぐ行動を起こしてきました。

若い頃からそうでした。きょうだいが多く大家族だったことから早く自立してひとり時間を楽しみたいという気持ちがあって、高校3年生のとき、大阪で会社を経営している叔父に、高校を卒業したら働かせてほしいと手紙を書きました。でも「何か技術を持っていないと雇えない」と言われてしまって。それですぐにタイピストの専門学校に入りました。英文と和文タイプの免状を取ろうと考えたんです。専門学校卒業後は、無事に叔父の会社に入社させてもらいました。

 

――やりたいことに近づく方法を見つける、大事なことですね。

 

意識して方法を探さなくても、ふと口にするだけで状況って変わるんですよ。ピアスをあけるきっかけがそうでした。

もともとおしゃれが好きでイヤリングを愛用していたんですが、よく落としてなくしてしまっていたんですね。それを習い事仲間にふと、「いつもなくしちゃうからピアスにしようかしら」と話したら、「だったら私がいい皮膚科を紹介してあげる!」と言ってくれて。そうやって機会ができたら私はすぐ実行したくなるタイプ。そのまま病院へ連れて行ってもらって、穴をあけました。おかげでアクセサリーをなくすストレスがなくなりましたね。

 

――何がきっかけになるかわからないものですね。しかし好機はそう簡単にやってくるものではないですよね。そういうときはどうしているんですか?

 

やりたいという想いをいったん頭の隅に置いておきます。そのときすぐにできなくてもあきらめないで、とりあえずアンテナを張っておくんです。そしたら、何かの拍子にきっかけが得られることがあるんですよ。イギリス旅行がまさにそうでした。

小説やエッセイを読んで、「いつかイギリスへ行ってみたい」と憧れていたんですけれど、その想いをずっと抱いていたら、地元広報紙にツアー広告が載っていたのが目に飛び込んできたんです。それには説明会の情報もあったので、すぐに電話をかけて予約しました。

説明会へ行ってみたら、少人数で回るスタイルが自分に合っていると感じられて、「これなら行ける」と思えました。憧れが叶うことになったんですよ。だから、すぐに実現できなくてもアンテナを張っておくといいですよ。私はやりたいことがたくさんあるので、張りまくっています(笑)。

 

できないことは受け入れる。できることへ目を向け楽しく


 

――いろんなことに興味を持てるのは素敵なことですね。

 

今、趣味が5つくらいあります。手芸に絵手紙、麻雀、歌、あと写経も。

 

趣味の1つ、絵手紙を描く様子。

  

――5つも!

 

若いときに始めて夢中になったものが結局今も続いているんですよ。手芸がとくに長くやっていますね。小さい頃からやっていましたが、長男が高校生のとき、同級生のお母さんに、「モラ」というパナマの先住民クナ族に伝わる伝統刺繍の作り方を教えてもらってのめりこみました。

モラの作り方を解説した動画。

 

1つ作品ができあがるとうれしくて、もっとやりたくなって、どんどん作っていきました。20年近く続けて、60歳のときに「もう、十分作った」とモラ作りは卒業しました。今はコースターをよく作っています。針仕事は、手を動かせば確実に作品ができるというのが醍醐味でおもしろいところですね。

 

コースターを作る様子。

 

――何かを作り上げることはやりがいも大きいですが、ときに難しかったり思うようにできなかったりすることもあるのではないでしょうか?

 

私はできないことに悩みません(笑)。何か失敗しても、「ここができなかった」と突き詰めて考えないんですよ。だって、できないことばかり数えてもしんどいですからね。それよりできることに目を向けます。

独身の頃、夜間の洋裁学校に通ったことがあったんですが、ミシンがうまく使えず途中でやめてしまいました。今でも使えません。でも手縫いはできますから、小物も服も手縫いで作ってしまいます。

 

――できないことに執着しないのですね。

 

年をとるとそれこそできないことも増えてきます。でもそれは仕方がないことですよね。ありのまま受け入れるまでです。

最近だと掃除をひとりでするのが大変になってきました。70代までは大きな掃除機を使って家中をきれいにしていたんですが、体がきつくなってきてしまって。今は月に2回お掃除のサービスを頼んでいます。できないことはさっさとあきらめて他の手を考えるほうが、気が楽ですね。手伝ってもらえることなら人を頼っていいと思います。逆に、できそうなことは自分でどんどんやっていきたいです。

 

――最近、「これはできそう」と思ったのはどんなことですか?

 

動画の撮影です。配信用の動画を今は孫に撮ってもらっていますが、やり方を工夫すれば私にもできるんじゃないかと思ったんです。

きっかけはYouTubeで、若い男性の方がカメラを固定して自分の食事の様子を撮る動画を見たことでした。機械ものは苦手ですけれど、スマホを固定して録画ボタンを押すだけならできそうだと思いました。孫に相談したらいい固定器具を教えてもらえたので、さっそく使って絵手紙を描くところを撮ってみることに。手元を映すだけでいいのでわりに簡単にできました。これからは針仕事や食事の様子も自分で撮れるといいなと思っています。

 

インタビュー後に公開された、自分で絵手紙を描く様子を撮った動画。

 

――少しずつまたできることが増えて楽しいですね。これからもお元気に活躍されてください! ありがとうございました!

 

 


 

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この記事を編集した人

ほんのまともみ

やる気ラボライター。様々な活躍をする人の「物語」や哲学を書き起こすことにやりがいを感じながら励みます。JPIC読書アドバイザー27期。



 
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