新納一哉さん、ゲーム開発にかける想い「やりたい気持ちに、ウソをつきたくない」
2020.07.29
仕事・働き方
2022.02.4
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家。ファンクバンド「KINZTO(金字塔)」リーダー。Kindleストアで『ファンクの歴史』を出版、noteでは『どこよりも詳しいVulfpeckまとめ』を連載。2021年1月にJ-WAVE「SONAR MUSIC」、同年4月末に週刊少年ジャンプ「巻末解放区!WEEKLY 週ちゃん 」にゲスト出演。現在、さまざまなメディアでファンクを広める活動を行っている。
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――Dr.ファンクシッテルーというお名前も特徴的ですが、「ファンク研究家」というのもあまり耳慣れないお仕事ですよね。具体的にどのような活動をされているのですか?
「ファンクを広める」活動をしています。KINZTOというバンドでファンクを演奏するだけでなく、『ファンクの歴史』という本を自分で作ってKindleで出版したり、noteやTwitterを使ってファンクの情報を発信したり。
音楽って「知って聴く」と、より楽しめるんです。だから、ただ聞いてもらうだけではなく、ファンクのことを知ってもらって音楽の聴き方が変わる体験をぜひしてほしいなと。
「Dr.ファンクシッテルー」というキャラクター※も、ファンクを知らない人にも興味を持ってもらいたくて始めたんです。ファンクにミッキー・マウスのようなキャラクター性を取り入れた「Parliament(パーラメント)」というバンドがいるんですが、そのバンドのDr.Funkenstein(ドクター・ファンケンシュタイン)というキャラクターをもじってこの名前にしました。
※Dr.ファンクシッテルーは地球に不時着した宇宙人という設定。「人類がファンクに触れるとき」に発生するエネルギー「ファンカロジー(Funkalogy)」を集め、それを燃料に宇宙船で母星に帰ろうと奮闘するというストーリーで活動している。
――日本ではファンクになじみがないという方もまだまだ多いですよね。ファンクってどんな音楽なんですか?
一言で言うと1960年代にアメリカで生まれたダンスミュージックです。アフリカ系アメリカ人の方が作り上げたブラックミュージックと呼ばれる音楽の一つで、踊りたくなる楽しい音楽ですね。「ファンクらしい」「ファンクっぽい」という意味で、「ファンキー」という言い方をされることもあります。
音楽はリズムと不可分なものです。「ラテンのリズム」というように「~のリズム」と呼ばれるものがあって、ファンクにも「ファンクのリズム」があります。ファンクのリズムは何かというと「16ビートのリズム」なんですね。16ビートのリズムが使われるとファンクっぽさが出ます。
16ビートはいろいろな音楽で使われていて、例えば星野源さんなど、実はみんながよく耳にするJPOPでもよく使われているんですよ。最近だと、BTSが『Butter』という楽曲でグラミーにノミネートされました が、あれも16ビートのファンキーな曲です。
――ファンクってとても身近な音楽なんですね。そう知ってからあらためて聴くと、「ファンクのリズム」がよりはっきりと感じられます。
――ファンクとはどのように出会ったんですか?
ここからは宇宙人としてではなく、実際の過去の話をしますね。
大学でジャズ研に入ったときに、初めてファンクの存在を知りました。
子どもの頃にちょっとクラシックピアノを習っていたんですが、特別音楽が好きという感じではなくて、ファンクについてもまったく知らなかったんです。
それで、大学生になった頃ジャズを好きになりかけていたので、ギターをやっている友だちについていく形でジャズ研に入りました。
そのジャズ研では、先輩がファンクバンドをやっていて、そこでファンクと出会ったんです。その頃はファンキーなジャズバンド、もしくはジャジーなファンクバンドが流行っていて、ファンキーな演奏をする先輩がたくさんいました。
自分もクラシックピアノの経験があったのでキーボードを始めて、先輩たちの影響でファンクバンド「KINZTO」を組んで、ファンクにどっぷりつかるようになりましたね。大学4年で組んだので、15~16年くらいずっと続けています。
――ファンクのどういったところに惹かれたんですか?
先輩が演奏するファンクを耳にしたときに、まさにビビッときたんです。「こんなかっこいい音楽があるのか!」って。楽しいし踊れるし最高で、こんなハッピーなものがあっていいのかと(笑)。
ただ、よくよく考えてみれば高校の頃好きだった音楽はほとんどがファンキーなものでした。16ビートの曲が好きだったのですが、当時の私はそれが16ビートだと知らなかったんです。私が好きだったものはずっとファンキーであり、ファンクだったんだとそのときに気づいたんですね。
――ファンクとほかの音楽との決定的な違いって何だったんでしょう。
ファンクってハーモニーの比重を減らして、リズムに特化したことで誕生した「グルーヴ」の音楽※なんですよね。私はリズムが好きで、ハーモニーよりもリズムに耳がいくんです。そういうもともとの性質に、ファンクの16ビートのグルーヴがガチッとはまったのかなと思っています。
James Brown(ジェームス・ブラウン)という人がリズムにものすごい特化してファンクを生み出したんですが、もしかしたら少し似たような性質があったのかもしれません。リズムに向いている人間というか。
※ファンクでは、複雑なコード進行を避け、少ないコードを繰り返して演奏することが多い。
――ファンクバンドをやるだけじゃなくて、ファンクの情報を発信されるようになったのはいつごろからなんですか?
2017~2018年頃からですね。そもそもファンクについて文章を書くようになったきっかけがいくつかあります。
まず一つは、『東京大学のアルバート・アイラー』というジャズの歴史書を読んで自分の人生が変わったこと。この本は音楽・文筆家の菊地成孔さんと批評家の大谷能生さんがジャズの歴史について書いているんですが、これがものすごく面白くて。ジャズのことだけじゃなくて、ジャズ誕生以前のクラシックやソウル・ファンクなどほかの音楽の話も網羅して書かれているんです。
ジャズのことをあまり知らずにジャズ研にいたんですが、その本を読んでジャズの歴史を知ってからもう一回聴くと全然違って聞こえるようになったんですよ。何百回と聞いたはずのアルバムが。それで音楽の知識を持つことの意味をすごく体感できたんですよね。音楽って聴くばかりじゃなくて、こういうふうに知識を伝えることで生まれる楽しみ方があるんだと教えてもらったんです。
本格的に書くことを始めたきっかけになったのは、2017年にイギリスのファンクバンドTHE NEW MASTERSOUNDS(ザ・ニュー・マスターサウンズ)の来日公演を観に行ったときです。このバンドが、その公演で「今からGrant Green(グラント・グリーン)に捧げる曲をやる」と言って、アメリカの昔のギタリストに捧げる曲をやって。50年前のアメリカのファンクのスタイルを見事に再現したんですよ。
演奏自体がかっこよかったのはもちろんなんですが、「イギリスのファンクバンドが東京にやってきて、今ではほとんど誰もやっていないアメリカの50年前のスタイルを完璧に演奏してみせた」というストーリーに感動したんです。これだけで一本の映画になるくらいのストーリー性ですし、すばらしい演出だと思いました。
ただ、演奏を聞き終えたあとに、このストーリーに気づいている人ってこの会場にどれぐらいいるんだろうっていう疑問が浮かんだんです。私はファンクの歴史を知っていたので、このストーリーが見えましたが、知らないとこの楽しさは得られないだろうなと。
この感動をほかの人にも伝えたいと思って、それからすぐに「ジャズファンクの歴史」という30ページくらいのPDFを作って、友だちに見せたんです。そうしたらすごく面白いと喜んでくれて。その後2回3回とやっていくうちに、これを本にしたらいいじゃないかと考えるようになったんですね。これが私の『ファンクの歴史』の本の原型になったものです。
実はこれまで、ファンクの歴史が分かる本ってほとんどなかったんですよ。『ファンク 人物、歴史そしてワンネス』という本が唯一のファンクの歴史書にしてバイブルだったのですが、著者は海外の方で、出版は1998年と少し古いものでした。新しい歴史まで踏み込んで、日本人が書いたファンクの歴史の本が一切存在しなかったので、みんながファンクの歴史を知らないのも当然だなと気づいたんです。
私はいろいろな本を読んで歴史を知っていて、これをまとめていけば本になるぞと。自分に気づきを与えてくれた『東京大学のアルバート・アイラー』のファンク版を作ろうと思ったんです。自分が『東京大学のアルバート・アイラー』で体験した「知って聴く」面白さを、ファンクで味わってほしい。私がやらなかったら誰もやらないかもしれないという気持ちになって、2018年から書き始めました。
――ライター未経験であれだけ濃密な内容の本を執筆されていたとは驚きです。
「とにかく書こう」という気持ちで書き上げました。
それと、Kindleがあったことも本を作ろうと思えた大きな理由だと思います。Kindleって出版に関してほとんどお金がかからないんです。紙の本だったら出版するのも大変ですけど、Kindleなら問題ないじゃないですか。
しかも、うちのバンドKINZTOのドラマーTaa-Kung(タークン)が、本の編集をやっている人間だったんです。なので、原稿を書き上げれば彼に編集をお願いできると。書いて編集してKindleにすれば、もう本が出せる。Taa-Kungがいなかったら私の本は世に出ていません。彼の編集には本当に感謝しています。
誰もやっていなかったので、形はどうあれ知識を残すことが大事だと思っていました。集中して書きましたが、それでも完成するまで2~3年はかかりましたね。
――実際に本を作ってみていかがでしたか?どんな面白さや難しさがありましたか?
「誰も作っていないものを作っている」というのは面白かったです。新しいものを作っているんだという気持ちが、書き上げるうえでのモチベーションになっていたと思います。
大変だったのはやっぱり情報をコンパクトにまとめるところですね。
この本は「ファンクを知らない方」を対象にしていて、例えば「ファンキーな曲は演奏したことがあるけど、ファンクってなんだかよく分かりません」というような方をイメージしていました。だからマニアックなことをずっと書くみたいなことはやめて、ある程度コンパクトにまとめる必要がありました。書こうと思えばいくらでも長く書けるテーマではあるんですが。
読むのが大変に感じてしまうページ数にはしたくなかったので、何をどれくらい伝えればいいのかの判断は特に難しかったです。削ることに意識を注いで、話す順番ですとか、構成に気を遣いました。結局、1巻100ページちょっとくらいで、上中下の全3巻にまとめたんですが、かなり大変でした。
読者に伝わってほしいと思って書くことは、大変であると同時に楽しいことでもあるんですけどね。
――2~3年もかけてまで本を書き上げることに取り組めたのは、何か理由があったんですか?
「時間が有限な中で完成させなくてはいけない」という使命感があったのは大きいですね。
実は10年前、KINZTO では既に活動をしていてまだ本などは書いてはいなかった頃、血液のガンになったことがあって。そのときは「死」を間近に感じていました。今はもう回復したのですが、その経験から「時間は有限だ」ということを強く感じるようになったんです。自分が「ファンクの歴史」を本にしなかったら、この先誰も書かないかもしれません。書けるうちに書かなくてはいけないという危機感が、モチベーションになりました。
それともう一つ、周りからの評価というところで、私のやる気スイッチを押されたのが『とんかつDJアゲ太郎』の小山ゆうじろう先生との出会いでした。
『とんかつDJアゲ太郎』は漫画の小山先生と原案のイーピャオ先生の作品なんですが、小山先生の絵が独創的で、見た瞬間に小山先生だと分かる絵なんです。オリジナルのスタイルを磨き上げて活動している先生が格好良く見えて、一気に大ファンになりました。
アゲ太郎の中にファンクのオマージュが結構出てきて、ファンクのアーティストっぽい絵も描いていらっしゃったので、これは小山先生ファンクも絶対好きだし、描けるに違いないと。もし自分が「ファンクの歴史」を紙の本として出版し直す機会があったら、そのときは出版社を通して小山先生に絵を依頼したいと思っていたんです。
そう思っていたら、私が書いているnoteを小山先生が読んでくれて。それがきっかけで先生とTwitterでお話させていただいたんですが、当時noteに書いていた10本ほどの記事をすべて読んで面白かったと言ってくださったんです。そのときに直接、私の本の表紙イラストをお仕事として依頼させていただいて、ご快諾いただけました。それも奇跡のようなことでしたが、さらにそのとき、小山先生に「noteの連載面白かったです。全部読んじゃいました。」と言っていただけたことが、それ以降の自分のやる気につながっています。あこがれの人とお互いの創作物で刺激し合うことができたんだと。
文章に関する自信はそれまでなかったのですが、そこで初めて「これでいいのかも」「間違ってないのかな」と思えたんです。それで自分の文章に自信が持ててきて、それがずっと続いている感じです。
――これからの目標はありますか?
これからも知らない方にファンクを広めたい、そして「知って聴く」楽しさを伝えていきたいと思っています。
そのために大きな目標というか夢が一つあります。最近、『マンガで読むロックの歴史』という本を知りまして、これはいいなと。いつか「マンガで読むファンクの歴史」ができれば、漫画でもっといろんな人にファンクを知ってもらえると思いました。権利関係が大変そうですが、もしかしたら共感して一緒にやってくれる人がいるかもしれないので、いつか実現したいなと思っています。
近いところでは、noteでも連載『どこよりも詳しいVulfpeckまとめ』 を書いている「Vulfpeck(ヴォルフペック)」というアメリカのファンクバンドのファンブックを2022年に出す予定です。また、ミュージシャンとしても2022年にアルバムを作れたらいいなと思っています。
――最後に、モチベーションに関する悩みを持っている方に向けて、メッセージをお願いできますでしょうか。
自分らしさを見つけて、それを育てることが大事だと思うんです。20年前にファンクを知ったとき、自分がファンクの本を書くことになるとは思っていませんでした。ただファンクが好きで、それを突き詰めていっただけなんです。でもそれを認めていただけた。
もし、好きなものを「続けていいのか」「あきらめなくてはいけないのか」と思っている方がいらっしゃったら、何とかしてそれを続けてほしいと思います。自分らしさを見つけて伸ばして育てていってほしいというのが私のメッセージです。
あとは、健康第一ですね。毎日を大事に生きていけば、その先に何かが待っているはずです。
――ありがとうございました!
――Dr.ファンクシッテルーさんにファンク入門におすすめの3曲をご紹介いただきました。ぜひ「ファンクのリズム」を感じながら聞いてみてくださいね!
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この記事を書いた人
ミズタ
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