新納一哉さん、ゲーム開発にかける想い「やりたい気持ちに、ウソをつきたくない」
2020.07.29
仕事・働き方
2021.12.29
大吉堂
YA(ヤングアダルト)やライトノベル、ジュブナイル、児童書、ファンタジー、ミステリ、SF、アニメノベライズなど今の10代に勧めたい本や、かつての10代が楽しんだ本などがそろう。
住所:大阪府大阪市阿倍野区阪南町3-12-23
営業時間:11:00 〜 19:00 ※不定休
アクセス:
・地下鉄 御堂筋線 昭和町駅4番出口より徒歩10分
・阪堺電鉄 東天下茶屋駅より徒歩10分
ホームページ:大吉堂 コドモ心のヒミツキチ – 大阪市阿倍野区の古本屋
店主 戸井律郎(とい・りつろう)
1973年生まれ。大阪府出身。児童館職員を経て、2014年、大阪府住吉区で「大吉堂」をオープン。17年に阿倍野区に移転。その後、子どもの居場所スペースを設けるため、クラウドファンディングを活用し、21年6月に同区の古民家(現在の店舗)に移転。
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――10代向けの本を専門に扱う本屋は全国的にも珍しいですよね。何か思い入れがあるのでしょうか?
自分の読書体験のなかで、「10代向けの本」と出会えなかった悔しさがあるんだと思います。
僕は小学5年生の2月に転校したんですが、転校先ではすでに人間関係ができあがっていて、うまくなじめなかったんですね。みんなの輪に入れなくて、よく図書室で本を読んでいました。児童書コーナーに行っては、面白そうな本を選んで、片っ端から読んでいきました。そのときから、本はいつでも共にいてくれる大切な存在になりました。
でも中学生になると、何を読んだらいいのかわからなくなってしまったんです。いつも行っていた児童書コーナーは、小学校を卒業したらもう行ってはいけないような気がしました。そこに中学生がいたら変なんだと思い込んでしまって。かといって、大人の本はまだ難しく、中学生の自分に合う本が見つけられず、本選びに困ってしまったんですね。
それで高校に入学したときに、図書室に行ってみると、いまでいうライトノベルに当たる10代向けの娯楽小説がずらっと並んでいたんですよ。読んでみたら、それが本当におもしろくて! そこから読み漁るようになったんです。このとき、「なんでいままで誰も教えてくれへんかったん!」って思ったんですよね。
――悔しい思いをしたことがいまの「大吉堂」の原点なんですね。
ええ。大人になるとミステリーにハマって10代向けの本から離れていったんですが、児童館で働くなかで子ども文化への興味が深まっていき、本でもイベントでも10代に訴求するものがあまりないことに気づきました。そんなときに出会ったのが、YA(ヤングアダルト)だったんです。
YAというのはアメリカで使われ始めた図書館用語で、10代向けのジャンルを指しています。中高生に向けた本があるというのを大人になってから知って、また10代のときのように読むようになったんですが、やっぱりおもしろかった!
それで本を求めているのに読みたい本に出会えていない10代に向けて、「世の中にはこんなにおもしろいものがあるんだよ」というのを伝えたくて、「10代の心を刺激する古本屋」をやるようになったんです。
――戸井さんが思う「YA(ヤングアダルト)」の魅力は何ですか?
YAは、10代特有の自分でも言葉にすることができないモヤモヤした気持ちに形を与えてくれるのもの、と僕は思っています。そのモヤモヤは悩みかもしれないし欲望かもしれない。いずれにしても「ああ、そうだよね」と、発見を与えてくれる。そこが魅力です。
――本屋を始める直接的なきっかけは何だったんですか?
それはいわゆる、「魔が差した」だけのことなんです(笑)。
お話ししたとおり、子どもの頃から本が好きだったので、「いつか本屋をやりたいな」という気持ちはずっとありました。でもそこまで本気じゃなくて、「いずれやりたいな」で終わると思っていたんです。
ところがたまたま住まいの近所にちょうどいい空き物件がありまして。で、なんとなく管理会社に条件などを問い合わせてみたんです。そしたら、「ああ、できるんじゃないかな」と思ってしまったんですよね(笑)。
――突発的なスタートだったんですね。
「いつかやりたいな」がいきなり実現することになって、あまり商売のことを考えずに始めたので、当初は「閑古鳥が鳴く」状態でしたね。
自分の気質的にも「売っていくこと」がちょっと苦手で。商売とわりきって売れる本を並べるというのができなかったんですね。本屋をやりたかったのは、ただ好きなものに囲まれていたかっただけでしたから。
それでもやっぱり売っていかないとしかたないので、他の本屋さんを真似して売れそうな本を置いてみたんですが、付け焼き刃なのでうまくいかない。精神的にもしんどかったです。
――好きでないものを扱うのはムリがあった?
そうですね。それで、「やっぱりちゃんと自分が好きなもの、読みたいものを並べよう」と思い直しました。自分が「大吉堂」でしていくことは、「売っていくこと」じゃなくて、「自分の好きなジャンルの魅力を伝えていくこと」だと方針を整えていきました。
――初めに失敗して、気持ちの切り替えがあったんですね。ただ「魅力を伝えていくこと」も「売っていくこと」と同じで、外へ発信していくことですよね。「好きなものに囲まれていたい」からスタートした戸井さんにとってそれはハードルの高いことではなかったですか?
それは大丈夫でした。なぜなら僕は「好きなものを好きと言うこと」にはまったくためらいがないんです(笑)。他人様が何と言おうと、「これ好きやねん!」って堂々と言えます。
振り返ってみると子どもの頃からそうでした。まわりで流行っていることがあったり、みんながやっていることがあったりしても、自分は他に興味のあることがあればそっちをやる。
それこそ小学校のときに、みんなが外遊びをしているのに、ひとりだけ図書室に行って本を読んでいたってことに表れていますよね(笑)。中高生の頃もオタクバッシングとかを全然気にせず、堂々とアニメグッズを使っていましたし、「好き」を貫く姿勢は子どもの頃からあったように思います。
――堂々と好きでいる、素敵ですね。
「自分の好きという気持ちだけは裏切ったらあかん!」と思うんです。今でもその姿勢は大事にしています。古本市などに出店すると、はっきり言ってうちのブースだけ異色なんですけど、「堂々としていよう!」と思っていて。
「もうちょっと世間に合わせたほうがいいんかな」と悩んだこともあったんですが、かっこつけて賢そうな本を並べてみると結局失敗するんですよ。しかも自分がやりたいことじゃないことで失敗するとつまらない。
だったら自分の素直な気持ちを貫いたほうがいい。そのほうが生きるのもラクですよ(笑)。
――「大吉堂」では、「10代のヒミツキチ」という居場所スペースを設けていますよね。それも戸井さんの「やりたい」気持ちから作られたんですか?
そうですね。居場所づくりも10代の頃の想いがきっかけとなっています。「中高生がただいていい場所」を求めていたんですよね。ワケもなく何もしていなくてもいていい環境って意外とないんですよ。
公園や街中は座っているだけでも通報されることがありますし、かといってショッピングモールのフードコートなどは、注文せずに座っているだけってできないですよね。何か買えばいいけど、高校生ならまだしも中学生はそんなにお金を持っていない。
事業として居場所づくりをされている方々もいますが、どうしても「何か問題を抱えた子が利用するところ」になっているケースが多いです。そうでない場所もありますが、そのイメージが強いんですよね。
――たしかに中高生が気兼ねなく過ごせる場所ってあまりありませんね。
「何もなくても座れる場所があったらいいのにな」って昔から思っていたんです。だから自分が店を始めたときは、店内にイスをたくさん置きました。別に本を買わなくても読まなくてもいいからただ座ってくれたらいいなと。
そしたら学校帰りの子どもがふらっと来て座るようになったんですね。その光景を見て、「よしよし!」と思っていたんですが、いかんせん店が狭くて(笑)。他のお客さんが来たらゆっくりできないだろうなということを今度は気にしはじめました。
――それでいまの店舗に移転して「10代のヒミツキチ」ができたわけですね。
ええ。クラウドファンディングでプロジェクトを立てると、開始早々多くの方が支援してくださいました。目標額600,000円だったのが、最終的に1,028,000円も集まったんです。居場所づくりに大きな背中を押してもらったととても感謝しています。
――利用状況はどんな感じですか?
誰も来ない日もありますが、利用してくれる人は「うまくうちを使ってくれているな」と感じています。本を読むでもなくおしゃべりするでもなく休憩していたり、自習に使ってくれたり。なかには、「いつも使っている自習室にちょっと気の合わない子がいて」と言って来る子どももいるんですよ。
うちは別に、困っている人に向けて「来てくださいね!」なんてことは言っていないんですが、ちょっとした気分でふらっと来てもらえているのはよかったですね。
世の中何か理由がないと行けない場所が多いと思うんです。でも理由がなくても行っていい場所を一から作るのは簡単なことではありません。運営費がハードルとなって難しいものです。
その点、うちはもともとあった店にイスとテーブルを置いただけ。しかも古本屋って何も買わずに出ていきやすい店なんですよ(笑)。やってみれば意外と古本屋と居場所って相性がよかったのかなと思います。
――居場所について、「もっとこうしていきたい」など目標はありますか?
「もっとこうしたい」というよりむしろ、「何もしないように」ということを心がけています。あまり自分のなかで意義を持たないほうがいいと思うんです。うちはあくまで古本屋。ただその片隅に「いていい場所」があるだけ。
こちらが変にアクションを起こすと、来にくくなってしまう子もいると思うんですね。だからあまり構えずにゆるーい感じでやっていこうかなと。
あぁでも、うちの取り組みを知ってもらいたいなという希望はあります。それは宣伝とかではなくて、ぜひうちを真似してもらいたいんです。最近、商店街なんかでお年寄りの買い物の休憩として、店先にベンチが置かれていますよね。ああいうのがもっと広がってほしいなって。
例えば散髪屋の待合スペースをお客さん以外にも開放して、雑誌を読むだけの場所にしてもいいんじゃないかって思っているんですよ(笑)。そういう店が増えたら、町全体も開かれていくんじゃないかなって。
――お話をうかがっていると、もはや本屋づくりを越えて町づくりを構想されていますね。
そんなたいそうなことでは(笑)。ただもっと町とつながりたいな、いろんな店と一緒になって町を開いていければいいなと。
開かれた場所にするといっても、何も「イベントをやろう!」「町おこしをしよう!」ってことではありません。来た人を「ただ受け入れる」、そういう環境を作っていけばいいのだと思います。
受け入れる空気があれば、「これ好きやねん」っていうのも言いやすいはず。「大吉堂」は「開かれた場所」であり「好きなものを好きと言える場所」でありたいですね。
根底にあるのは10代の頃の「こんな場所があったらいいのにな」という気持ち。きっとそれが僕のやる気スイッチですね。だから子どもでも大人でも「10代の心」を持った人に、「うちがあるよ」と発信することが今後目指していくことです。
――ありがとうございました!
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この記事を編集した人
ほんのまともみ
やる気ラボライター。様々な活躍をする人の「物語」や哲学を書き起こすことにやりがいを感じながら励みます。JPIC読書アドバイザー27期。