子育て・教育

【連載】「勉強しなさい」は効果的?|2020年、子どもたちの「アクティブ」な学びを考える(4)

2019.03.15

【今回のポイント】
・最難関大学の学生がいる家庭に、「勉強しなさい!」はほぼない。
・保護者に見られたのは、子どもがアクションを起こすのを「ただ待つ」姿勢。
・「ただ待つ」ためには保護者にも忍耐が求められる。



<第4回>「勉強しなさい」は効果的?

 もう一つ、「ただ待つ」ことの重要性を物語る事例をご紹介しましょう。
 わたしはこれまで東京や京都の大学を中心に、およそ10の大学で教育学の授業を担当してきました。女子大もあれば、男子学生が多い理系の大学で教えたこともあります。入学時のいわゆる学力偏差値も実に多様です。 
 どの大学に出講しても、わたしは学生たちに、「どのような子ども時代や学校生活を送っていたか」をレポート課題として課してきました。それを読むと、多くの学生は、恵まれた環境で、ご両親が子どもの教育に積極的に関わっていた様子を書いてきます。

 最難関といわれる大学の学生たちの子ども時代のレポートを読んでいて、ふとあることに気がつきました。ていねいに分析したわけではありませんが、いわゆる学力偏差値の高い大学で学ぶ学生ほど、幼少期に親から「勉強しなさい!」と叱責された経験がほとんどないようなのです。
 それはわたしにとって意外な内容でした。最難関大学に入学するためには、高い学力が必要です。保護者は子どもの受験や進学のために、無理に学習塾や予備校に通わせてきたに違いない。そんな過干渉な「教育パパ/ママ」像をわたしは連想していたからでした。

 子どもにとって、他者から強いられる「勉強」はいやなものです。特に苦手な教科や単元であれば、なおのことです。やりたくはない、しかしやらなければならないことも十分にわかっているはずです。なかなか机に向き合えずにいるときに、親から「勉強しなさい!」と言われたら、どうでしょう。よけいに反抗的な態度をとってしまい(「言われなくても、わかってるって!」)、かえって意欲が低下してしまうのではないでしょうか。そんなときに取り組まなければならない「勉強」ほど、退屈でつまらないことはありません。
 「勉強しなさい!」の代わりに、学生の家庭では、子どもが自ら行動を起こすまで「ただ待つ」ことを心がけておられたようです。宿題のために机に向かうのも、学習塾に行くのも、すべて子どもが言い出す/動き出すまで「ただ待つ」だけだったというのです。

 「ただ待つ」ことほど、難しいことはありません。目の前で子どもがテレビをだらだら観ていたり(リラックスしているかもしれません)、宿題をしたかどうか気になると、ついつい口出ししたくなるものです。
 頭ごなしに「勉強しなさい!」は逆効果。子ども自身がアクションを起こすまで、ただひたすら「ただ待つ」ことを親として心がけたいものです。それができるのも、子どもに対する絶大な信頼(うちの子は大丈夫!)があればこそ、なのでしょう。
 しかし、「ただ待つ」だけでわが子が本当にアクションを起こしてくれるのか――どうしても懸念を抱いてしまう保護者の方は少なくないことでしょう。子どもがアクションを起こすためには、「好きなこと」への興味・関心や「やってみたい」という意欲・欲求が欠かせません。学習の無理強いが逆効果だとしたら、わたしたち大人は、子どもにどんなことをしてあげればよいのでしょうか。

【連載】2020年、子どもたちのアクティブな学びを考える
1. 未来を担う子どもたちに、これから「求められる力」とは
2. 思考力や探究心を育むには
3. 習い事やお稽古事は早くからやらせた方がいい?
4. 「勉強しなさい」は効果的?
5. 経験や体験を親子で共有し、子どもの興味・関心を広げよう。
6. 情けは人のためならず~「みんなの学校」のために~



●筆者プロフィール

小針 誠
青山学院大学 准教授

こばり・まこと●1997年、慶應義塾大学文学部卒業。2005年東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。教育学博士。同志社女子大学准教授を経て、17年、青山学院大学教育人間科学部准教授に就任。現職。
教育社会学や教育社会史を専門とする。著書『アクティブラーニング 学校教育の理想と現実』(講談社現代新書)。

 
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