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東京学芸大こども未来研究所にインタビュー。「きかんしゃトーマス」で子どものやる気を引き出すために、私たち親は子どもにどう働きかけていけばいいんでしょうか? 先生方のアドバイスは「子どもに“分かってもらおう”と焦ってはいけない」というものでした。
こんにちは。やる気ラボの川崎です。
「きかんしゃトーマス」と「子どもの非認知能力」について、東京学芸大こども未来研究所のみなさんにお話を聞きました。
第1回では、子どもたちはトーマスを通して「小さな社会」を追体験しているというお話。第2回で、そうした遊びが子どもたちの「目に見えない力(非認知能力)」に良い影響を与えているのではないかというお話でした。
最終回のテーマは、私たち“大人”です。子どもの非認知能力――主体的に社会を生きていく力を引き出すために、「きかんしゃトーマス」とどう付き合っていけばいいのか。アドバイスをいただきました。
#1 子どもたちはなぜ「きかんしゃトーマス」に夢中になるのか。東京学芸大学の研究所が見つけた答え
#2 トーマスの教育的効果は、子どもの“非認知能力”にあり! 「このキャラが好きな子は非認知能力が高い」はあるのか?
#3 子どもに“分かってもらう”必要はない。親としての「きかんしゃトーマス」でのより良い接し方
先生。実際のところ、「トーマスによって、子どもの非認知能力が上がった」って効果測定できるものなんでしょうか?
それは、分からないものですよ。
やっぱりそうですか…。
トーマスに何らかの子どもたちへの影響があったとして、子どもがどう受け取るかは分かりませんし、受け取ったものが意味を持つのは何十年も後のことかもしれません。そんなものです。「きかんしゃトーマスを見せればどんな子どももやる気になります!」と断言することはできない。
教育ってそういうものですからね。
ただ、トーマスのような子ども向けのものに“何が埋め込まれているのか”、大人の側が理解しておくことには意味があると思います。
大人の側が……ですか?
いま子どもたちに与えているものがどういう特徴を持っていて、子どもたちの遊びにどんな良い影響を与えているのかを理解しておくと、大人の働きかけ方はもっといい方向に変わっていくと思うんです。
例えば、トーマスの物語をキャラクターグッズのような形で商品化する場合で考えてみてください。いま、ああしたものはどうしても「脱線した」「危険な場所をくぐった」「宝を見つけた」といった個別のイベントやアクシデントばかりがフォーカスされがちだったりするじゃないですか。
あぁ、それはたしかに…。でもこれまで、きかんしゃトーマスの魅力はそこではない、派手さのないところにあるのではないか、というお話をしてきましたからね。
はい。イベントやアクシデントとは違ったところが、実は教育的には重要かもしれません。そうしたことを考えるのが重要なのかなと。
それが理解できていると、保護者の働きかけ方も変わってきそうですね。
そういえば、トーマスには「正義と悪の対決」みたいな単純な分かりやすさってないですよね。メインキャラクターに、根っからの「いいやつ」と「悪いやつ」がいない。
そうですね。単純な勧善懲悪じゃない。
例えばトーマスやジェームスなんて、子どもの頃は「いつもトラブルばかり起こしているお調子者だ」って印象だったんですが、最近あらためて見ていると「おまえら意外といいやつだったんだな」って思うこともしばしばです。けっこうマジメに働いてるんですよね、トーマスたち。
いいことも悪いこともする。そういう大人社会での働きぶりを、子どもたちはトーマスを通して見ていると思います。そんな「複雑さ」も描いているのが魅力なのかなと。
ただ、第1回でもふれましたが、子ども向けのアニメで世間的に好まれるのはもっと「分かりやすい」ストーリーなのかもという印象です。派手でインパクトがあったり、シンプルなキャラクター造形だったり、お話のテーマを前面に押し出していたり…。
いまは、「分かりやすい道徳性」に向かっていく流れが、いろんな日本のアニメーションの物語をめぐる方向性としてある気がします。
分かりやすい道徳性…。
分かりやすいのが良いのか悪いのかは何とも言えません。
ただ、きかんしゃトーマスはこうした世間的な流れとは違う「分かりにくい道徳性」を持っているのではないかと思うんです。
制作者や、コンテンツを展開する企業が「分かりやすさ」を追求するのは自然な流れだと思います。
ただ、「子どもたちにどう分かってもらうか」を簡単にしようとすればするほど、子どもたちのメディア体験は画一的になってしまいます。
簡単に「分かってもらう」のが良いとは限らないと。
「なんとなく感じる」くらいでいいんじゃないでしょうか。
なんとなく――?
なんとなく、「ケンカっていうのはこういうふうになるんだな」「仲直りってこういうふうなんだな」「こんなふうにしてうまくいったんだ」とかが、ぼんやりと子どもたちにくりかえしくりかえし染みこんでいくくらいがいいのかなと思います。
大事なのは、子どもたち一人ひとりが、自分なりにさまざまなプロセスを感じ取ること。
そこを「力を合わせるのが大切なんだよ! こうしたからうまくいったんだよ!」って説明してしまうと一気にお説教っぽくなってしまいますね。
それは、良くないことですよね。大人から子どもに単一的なプロセスを押しつけてしまっている。
大人の側で“何が埋め込まれているか”理解しておくのは大切ですが、結果を出そうとするあまりそれを子どもに押しつけようとするとかえってうまくいかないんですよね。
これは、保護者の方が「きかんしゃトーマス」とうまく付き合ってもらうにあたっても、大切な考え方だと思います。
トーマスのお話から読み取れるテーマや教訓があったとして、それをお子さんに説明して「分かってもらおうとする」のではなく、お子さんなりに感じたり考えたりする姿を長い目で見守っていただけたらと。
「すぐには分かりやすい結果なんて出ないもんだ」と理解して見守るのって、大切ですよね。
ただ、子どもたちが「なにがなんだかぜんぜん分からない」で終わってしまうのは、それはそれで良くないじゃないですか。
きかんしゃトーマスってあれだけのキャラクターがいろいろな行動をしているのに「ゴチャゴチャしていてサッパリ分からない」という感じにはならないんですよね。
その「分かりやすさ」って、スゴいところだと思うんです。
説明的になりすぎないように説明するのが上手いんだと思います。だから、おもしろい。 1話あたり10分以下 という短さもいいのかもしれません。
ジョン・カビラさんのナレーションの存在も大きいと思います。三人称視点のちょっと引いた視点でのナレーションがあったほうが、今回見ているお話がどんなシチュエーションなのか、キャラクターや場の関係性がどんなものかというのを、子どもたちは把握しやすいのではないかと。
もし、トーマスからナレーションをなくしてキャラクターの一人称だけの物語になった場合、子どもたちの見え方は変わってくるのかもしれません。
ただ、そのさじ加減は本当に難しく、私たちも断定的なことは何とも言えないというのが正直なところです。
表現って、本当に難しいですね…。
おもしろいと思ってもらえないと、子どもたちはそっぽを向いてしまう。かといって、子どもたちに分かるように伝えようとすればするほど、どんどん説明的になってしまい、さきほどの「なんとなく感じる」からは遠ざかってしまう。変えるのって本当に大変です。
何も、表現の進化・変化に歯止めをかけたいわけじゃないんです。トーマスだって「ずっと変わらなくて良い」とは思いません。時代の変化に合わせて、これからも子どもたちに良い影響を与える表現を追求していくべきです。
ただ、その中で作品の本質的な良いところがこぼれおちてしまうようでは、あまりにもったいない。分かりやすさの名のもとに、日本のさまざまなキャラクターやアニメーションがそうなってしまうというのは、避けたいじゃないですか。
だからこそ、子どもたちの社会的・文化的な学びがうしなわれないように、時代に合わせてどういう新しい考え方をしていくべきかは、私たちとしても今後も考えていきたいと思っています。
例えば今回のように、きかんしゃトーマスに“何が埋め込まれているか”の分析を形にしておくなどですね。
そうですね。
研究の今後の展開はいかがでしょうか?
では、そこは小田さんから。
東京学芸大こども未来研究所
専門研究員 小田 直弥 さん
東京学芸大こども未来研究所の小田です。
まず、今回のトーマス研究結果については、さらに多くの方に知っていただけるよう、今後もさまざまな形で情報発信していくことを検討しています。
また、今回の研究をふまえ、当研究所では新しいプロジェクト「キャラクター未来研究所」を始動させることになりました。
そうなんですか!
日本が育んできたキャラクターの文化が、子どもの自己肯定感の醸成につなげられるんじゃないかという仮説がありまして――新しいプロジェクトとして動かしてくことになったんです。
どんな風に研究を行っていくんですか?
「作品にふれることで“私”はどう変わるのか」という、一人称をちゃんと捉えていくことが方針です。既存のアニメーションだと、作品そのものの分析や、その作品が生まれることで社会がどう変わったのかというのが多いのですが――
ナラティブアプローチという考え方にすごく興味があるんですよ。ある人が「自分の人生」を振り返る中で、どんなふうにキャラクターとの接触があったりメディア体験があったのか。どのキャラクターが存在価値としてあったのか――といったものです。
いろんな人のキャラクター体験から「私ってこういうキャラクターとともに育ってきたんだな」「意外なところでこのマイナーキャラクターが実はすごく自分の心の支えになっているな」といった、リアルな語りでしか出てこないリソースを引き出していって、それを専門的な知見で分析したいんです。
とてもおもしろそうです!
さっきのお話にもありましたけど、キャラクターや作品の本当の価値って受け手一人ひとりの中にしかないはずじゃないですか。
「このキャラクターから“私”は何を感じ、“私”はどう変わったか」は受け手によって違ってくるはずなんです。そして、それがその人の個性になる。
なら、「自分のキャラクター体験の振り返り」という“物語”も、きっと一人ひとり変わってくるはず。どんな成果が出てくるのかは大いに興味があります。
ご期待ください。「キャラクター未来研究所」は一般公募のサロン活動で、キャラクターの魅力や私たちの生活との関わりについて「誰でも語れる」「誰もが探究者になれる」空間です。新しい教育的知見の開発ができる場になればと思っています。
楽しみです。こちらの活動もぜひ見させてください!
#1 子どもたちはなぜ「きかんしゃトーマス」に夢中になるのか。東京学芸大学の研究所が見つけた答え
#2 トーマスの教育的効果は、子どもの“非認知能力”にあり! 「このキャラが好きな子は非認知能力が高い」はあるのか?
#3 子どもに“分かってもらう”必要はない。親としての「きかんしゃトーマス」でのより良い接し方
(c)2019 Gullane (Thomas) Limited.
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この記事を編集した人
川崎 健輔
1987年生まれ。教育業界のWeb編集者です。2歳息子の育児、奮闘中。小学生時代はゲームボーイと受験勉強ばかりやっていました。最近はリモートワークが続いているので甚平を仕事着にして頑張っています。バームロールを与えられると鳴きます。
(Twitter ▶ @kwskknsk)