新納一哉さん、ゲーム開発にかける想い「やりたい気持ちに、ウソをつきたくない」
2020.07.29
仕事・働き方
2023.12.4
島根県出身、松江市在住。立体切り絵作家。小学生の頃から切り絵を始め、美術やデザイン関係の学校で学んだ経験はなく、作品は設計図や下絵なしで作ることも。1枚の紙から自身の感性で即興で作り上げる独創的な作風が特徴で、中には7メートルを超える大型の立体切り絵作品もある。広告やコラボ作品等も手がけるほか、個展、実演パフォーマンスや教室、講演などを行い、島根県松江市の松江観光大使も務める。
公式サイト:SouMa
公式X:SouMa 立体切り絵作家
Instagram:souma.kirie
YouTube:KIRIE SouMa
――SouMaさんの作品は、すごく繊細で、1枚の紙からできているとは思えない立体表現も、ほかの切り絵とは明らかに一線を画していますね。作品は、どのような場所で見られるのですか?
個展や実演のほかに、依頼をいただいて制作しています。ホームページに掲載しているような額に入るサイズの作品だけではなく、企業様からのご依頼があれば、空間演出で何メートルもあるようなものも作らせていただいています。海外でも個展の巡回展があって、地域はアジアが多いです。
――海外でもご活動されているのですね。作品は、構想から完成までどのぐらいの期間がかかりますか?
簡単なものだと1日に10個ぐらいは作りますよ。ぼんやりと「こういうものを作ろう」と思って切り始めるのですが、テーマが決まれば、作るのは早いです。いつも大体10個、20個の作品を同時に作っているので、一つに集中するというわけではないんですけれどね。
――空間演出の作品は、かなり大型のものもありますよね。一番大きいものはどのぐらいですか?
Cartier(カルティエ)伊勢丹新宿店様で掲示された大型壁面が7メートル×2メートルで、パンテール(豹)は高さ2メートルのサイズでした。空間演出などの作品は必ず現地に行って製作しているのですが、制作期間は1カ月ぐらいでした。
――氷と水の入ったグラスは紙とは思えないほどの陰影や立体感がありますね。よりリアルに見せるために、実物や写真などを見ながら作るのですか?
グラスなどは実物モデルを目の前に置いて、写真を何枚も撮ってみて、光の表現方法や角度を観察したりもしています。ただ、ほかの作品も含めて本物に見せようとして作っているわけではないので、「本物に見える」とか「写真みたい」って言われたときに、ああ、そうなんだと新鮮な発見があります。
――設計図や下絵なしで作ることもあるそうですが、即興で作ることも多いのですか?
最初に下絵があるとゴールが見えてしまうというか、それだったら機械が作ってしまった方が早いと思うので、せっかく人間が作るなら、その時の気持ちで作りたいなと思うんです。ただ、緻密に設計図を準備する作業も楽しみの一つではあるので、そういう作り方をすることもありますよ。
企業様から依頼をいただく時は、最初に企画書を見せていただき、簡単なデザインと言葉でイメージをお伝えして「あとは任せてもらえたら嬉しいです」と。その点は実績を積んで信頼関係を築いた上で、お仕事をいただけるようになりました。
――作りながらイメージが変化していくこともあるのですか?
それはありますよ。毎日「ああしよう」「こうしよう」と、イメージを変えながら作っています。それが楽しいんです。
――アイデアによって、柔軟に切り方も変えられるんですね。
こういう作品を作っていると、すごく繊細でこだわりが強いと思われがちなんですが、そんなことないんですよ(笑)。むしろ、お客さんやクライアントに「こんな感じがいいです」と要望を言ってもらえた方が私自身の発想が広がりますし、「できるか分からないけどやってみよう!」とチャレンジできるので面白いですから。
――繊細な部分が切れてしまったり、予想外のアクシデントが起きた時はどうしているのですか?
私の作品は一枚の紙でつながってはいますが、網のような形になっているのでどこかが切れたら全部が離れてしまうというような作り方ではないんです。だから、切れたり破けたりしても、それが「味」になります。私自身が綺麗な線を残すことがあまり好きではないので、削るような表現にしたり、荒っぽく見えるけど全体見た時にまとまって見えるような作品作りをしているんですよ。
――それで、独特の陰影や立体感が出るのですね。人物や建築物、風景や生き物などさまざまな作品がありますが、モチーフはどのように決めているのですか?
オーダーを受けたり、「これを作ってみてもらえないか」とイメージを伝えてもらって作るパターンが多いのですが、私自身は抽象的なデザインをずっと作りたいと思っていたので、最近はそういうタイプの作品が多くなってきました。
――抽象的なデザインの方が、作るのも大変そうです。
そうですね。たとえば目で見て「細かい」と分かる作品は簡単なんですけど、淡い表現をしたり、何をどう切っているのか分からないものは技術的にも難しくて集中力が必要ですし、自分の中で湧き上がる感情を目に見える形に落とし込むので、作品を見るお客さんからすれば「これはなんだろう?」と思われるところが作り手としては不安な部分があるんです。その「なんだろう?」という部分がいい方向に働くこともあれば、「よくわからない」と言われてしまう可能性もありますから。だからなかなか踏み出せなかったんですが、最近は自分の中で整理できるようになりました。今は、見る人によって違った解釈をしてもらえることは、むしろ嬉しいですよ。
――SouMaさんが最初に素材としての紙の面白さに気づいたのはいつ頃だったのですか?
子どもの頃、身の回りにあるもので、工作で一番楽しめるものといえばやっぱり紙じゃないですか。ペラペラしたような広告紙とか厚紙とか、いろいろありますよね。ナイフやカッターを使ってそれを削ったりして、立体的な造形物を考えて作ることが好きでした。
――子供の頃から手先が器用だったんですね。当時からいろいろな発想が浮かんでくる感じだったのですか?
小さい頃から平面ではなく、立体的な切り絵を作っていました。ただ、当時はそんな手法があることも知らず、物心ついてから世の中に「切り絵」というジャンルがあることを知りました。昔は切り絵は黒い紙を使うのが一般的だったようですが、私はそれも知らなかったので(笑)、小さい頃から白い紙を使って作っていました。
――知らないからこそ、技術や表現も、自分だけのオリジナルのものになっていったのですね。
そうだと思います。最初は紙が破けてしまったり、水をこぼしてしまったり、いろんなハプニングが起こりました。でも、遊んでいる中で紙が持っている性質とか面白さを見つけていったんです。たとえば、火を使って炙ると焦げ目がつくので、その自然な表現がいいと思って、今も絵の具を使った色付けはしていないんですよ。
それと、「パーツを組み合わせれば立体的な作品を作れるのに、なんでわざわざ一枚の紙から立体を作るんですか?」と言われることがあるんです。でも、そうすることにこだわっているわけではなく、子供の頃に折り紙などで「紙をどんどん足す」という贅沢な遊び方をせず、一枚の紙から作ることを続けてきたので、その方がアイデアが浮かびやすいんですよね。子供の頃ってそれほどいろんな道具を使えるわけでもないですし、自分の頭の中で想像を膨らませるのはタダじゃないですか。
――身近な素材を最大限に活かしたんですね。見本にしていたものや、何か刺激を受けたものはありましたか?
小さい頃はアートに触れる機会もあまりなかったですし、影響を受けたものは特にないです。どちらかというとスポーツで体を動かすのが大好きで、機械体操と水泳とバレーホールと陸上をやっていました。自然の中で動物を観察するとか、そういうことも好きでした。
――すごくアクティブですね! 今も、創作活動につながるように続けていることはあるのですか?
運動は今も好きで、パワーリフティングやジョギングなどをやっていますが、「仕事に生きるだろう」と思って何かをしたり、人に会ったり、本を読んだり、ということは昔からまったくしないんですよ。
最近は茶道も始めました。ただ、それも仕事を意識してやっているわけではないのですが、そういうことの精神が自然と作品作りにも生きてくる部分はありますね。
――ご自身の趣味や好きなことにアンテナを向ける中で、新しい世界観を自然と取り入れてきたのですね。
気になることがあったら、まずはじっくり考えます。物理とか数学とか、そういう話も結構好きなので、物理の講演会を見て、その後に本を買っていろいろ書き出して勉強したり。もともと医大で目の研究をしていたので、卒業後は病院に就職して3年間ぐらい働いていたんです。
――目について研究しようと思ったきっかけはなんだったのですか?
小さい頃、近所に失明したおじいさんがいたんです。そのおじいさんから点字の本を見せてもらった時に、「なぜ自分はこんな風にものが見えるのか」と考えました。それで、「人間は目に頼らない感覚もいっぱい持っている」ということを知って、目に興味を持ったんです。
私自身、作品を作るために紙で作業をしていて「目が疲れませんか?」と言われるんですが、実際には目以外の感覚の方を主に使っているので疲れないんです。手触りで紙の陰影を表現したり、技術を磨いたり、子どもの頃からそういう感覚的なことへの興味がありました。それで、家族や親族にも医療関係者が多かったので医療の方向に進みたいという目標があって、医大に進学しました。
――大学卒業後に医療関係のお仕事をされていた中で、今の仕事をメインになさった転機は何だったのですか?
働きながら作品作りはずっと続けていて、出来上がったものをブログで発表するなど、趣味でやっていたら、そちらでお仕事をいただけるようになって、そちらの方が忙しくなってきて。ただ、「この仕事で一本で生きていこう」とか、そんなに意気込んだわけではなく、「人が喜んでくれるならやってみよう」という気持ちで、2012年に起業して今の仕事を始めました。
その時期は、いろいろなタイミングが重なったんですよ。一つは、今のエージェントが「仕事にしないか?」と声をかけてくださったことです。島根県を拠点にしている中で、仕事で活動を広げるなら「都会に住んでいたほうが便利でしょう?」と言われることもあったんですが、エージェントが「これからの時代は、むしろ島根にいることが強みになると思う」とアドバイスをくださったんです。
――地元で活動を続けられることも、モチベーションになったのですね。
そうですね。やっぱり好きな環境だと、気持ちが入って自由に好きな作品が作れますから。ちょうどその時期に親の介護が始まったのですが、アートの仕事は家でできることも大きいです。そういう、いくつかのタイミングが重なったことで始めましたが、今振り返っても良い決断だったと思います。
――松江市の松江観光大使としてもご活動されていますよね? 作品作りが地域貢献にもつながっているのですね。
最初は市の方から「観光大使をしていただけませんか」と連絡をいただいたんです。ただ、展覧会で転々としているので、地元にどんなふうに愛着を持っていいのかが当時はよくわからなくて。ただ、私が好きなことを続ける中で、「プロフィールに島根県出身ということが出ることがいいことなんです」と市の方から言ってもらえました。私が好きなことで輪を広げていくことで、地元の方たちや家族にも喜んでもらえるのなら頑張っていこうと思いました。
――作品作りをされている中で、喜びを感じるのはどのような時ですか?
お客さん同士が私の作品について、作品の前で楽しそうに喋っているのをこっそり見るのが一番の喜びです(笑)。私の作品はアートの王道からは少し外れていると思うのですが、アートにそれまで関心がなかった方や子どもたちなど、幅広い年齢層の方が見にきてくれるのは嬉しいです。たくさんのメッセージやお手紙もいただいだくのでが、最近、人生経験豊富な年配の方から「久しぶりに感動しました」という言葉をいただいたんです。とてもシンプルな言葉でしたけど、それはすごく心に残りました。
――まっすぐで重みのある言葉ですね。今後、SouMaさんがチャレンジしたいと思っていることはありますか?
私は紙という素材が好きですけれど、それ以上に考えることが好きなので、違った素材にも興味があります。例えば鉄を使ったオブジェなどを作ってみるとか、あまり枠を決めずに取り組みたいですね。私という人間を使って「何か面白いことができるかもしれない」と思って声をかけていただけたら嬉しいですし、いろいろな方との出会いや機会を増やして、自分では思いつかなかったようなアイデアや表現にチャレンジしてみたいと思っています。
――SouMaさんのように、ご自身の強みや好きなことを生かして道を切り開いていくためには、どんなことが大切ですか?
私は甥っ子がいるのですが、そういう小さな子どもたちを見ていて、「人は小さな選択を含めて、すべてにおいて好きなことをやっているんだろうな」と思うんです。例えば「今日は仕事が嫌だな」とか「やる気が出ないな」と思ったとしても、その仕事を選んだ時点で、わざわざ嫌いなことはしていないですよね。そういう小さな選択の積み重ねの中で「自分はなぜこれを選んだんだろう」「何に興味を持ったんだろう」と、考えて深掘りをしていったら、きっと周りには好きなことだらけだと気づくと思うんです。
それと、「興味がない」のと「嫌い」の間にはすごく大きな差があると思っていて。「嫌い」は、そこに関心があるからこそ、そこまでの強い感情になると思うので、何かのきっかけがあれば、好きなことになる可能性もあると思います。
――「嫌い」は「好き」の裏返しかもしれない、ということですね。
ええ。甥っ子たちと話しするときに、「何でそれが気になったんだろうね」と話していると、子どもたちも自分の頭で一生懸命考えて、「こうかもしれない」と気づくことがあるんです。「一つ一つの選択は自分が興味のあることだからこそ体が動く」という気づきが増えてくると、人生も変わるのではないかと思いますし、気持ちに素直に動いてみることで、新しい景色が見えると思います。
「好きなことで生きていく」というと壮大に聞こえますけれど、私も今の仕事は「好き」という言葉で括れるものではなくて、ずっと一緒に過ごしてきたものだから、「愛着」の方がしっくりきます。教室をしていると、「アートの道に進んで、それ一本で食べていきたい」という相談を受けることもありますが、別にそれ一本じゃなくてもいいのに、と。今の時代はいろいろな肩書きを持っている方が面白かったりもするし、いろいろなことをやって「最終的に残ったものがこれだった」っていう風になれば、それでいいんじゃないかなって思います。
――今後も新しい表現へのチャレンジを楽しみにしています。ありがとうございました!
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この記事を編集した人
ナカジマ ケイ
スポーツや文化人を中心に、国内外で取材をしてコラムなどを執筆。趣味は映画鑑賞とハーレーと盆栽。旅を通じて地域文化に触れるのが好きです。