新納一哉さん、ゲーム開発にかける想い「やりたい気持ちに、ウソをつきたくない」
2020.07.29
生活・趣味
2023.12.14
エサさん
1989年生まれ。岐阜県羽島市出身。名前の由来は、エキサイティングの略。会社員をしながら日本全国の珍しい建築や喫茶店、寺院、日常の“珍百景”などをSNSやブログで紹介。年間400以上の珍スポ巡りを行い、これまで行った珍スポットは2000を超える。2023年9月には、長野県松本市の「実家カフェ」にて自身初となる県外での個展「珍トピア」を開催。
X(旧Twitter):@meat_stew
HP:エサトピア
撮影協力:実家カフェ
――エサさんの珍スポットを紹介しているSNS、とても面白いですね!今日は珍スポ巡りの魅力や、エサさんの「やる気」の源などについて伺えたらと思っています。
ありがとうございます!こんな怪しいアカウントが取材を受けるのも大変恐縮ですが、ぜひ協力させていただけると幸いです(笑)。
――では、まずは「珍スポトラベラー」としての活動について教えてください。
日本各地の珍スポットを旅して、特に印象に残った場所を紹介する活動をしています。珍スポットと一言でいっても、ちょっと不思議な資料館や博物館だったり、喫茶店や温泉、変わったものを祀っている神社、あと路上にある変なものだったり、いろんな種類があります。
珍スポットというと熱海秘宝館のような昭和のテーマパークみたいなものをイメージされる方が多いと思うんですけど、私は「ちょっと普通とは違う面白い場所」は全部珍スポットだと思っていて「面白い」「変わっている」と感じたら、とにかくすべて回っています。
基本的な活動は、珍スポ巡りで撮った写真や記録をSNSに投稿しているだけですが、地元の岐阜県内のギャラリーカフェで展示をしたり、今年9月には長野家松本市の実家カフェというお店で「珍トピア」という個展を開いて、トークイベントなどもやらせていただきました。
ちなみに「珍トピア」というのは、珍スポットとユートピアを掛け合わせた思いつきで作った造語になります。個人的にはとっても気に入っています(笑)。
――「珍トピア」もとても楽しかったです!珍スポ巡りはいつから始めたのでしょうか?
2016年くらいから始めて、2020年から自分の記録としてSNSに投稿するようになりました。2021年には、より詳しく紹介するために「エサマニア」というHPもつくりました。
最近はちゃんと数えられてないんですけど、訪れた珍スポットは7年間で2000を超えました。北は北海道から南は九州まで46都道府県に行っていて、残るは沖縄だけです(笑)。
――それはすごいですね!特に印象に残っている珍スポットは?
たくさんありますが、1つは「天空の村・かかしの里」ですね。徳島県三好市にある名頃地区は、標高800mにある住民が40名ほどしかいない限界集落です。そんな小さな村ですが、なんと住民より多い300体のカカシが至るところにいるんですよ。
すごい山の中にあるので行くのも大変だったんですけど、誰もいない田舎道を車で走っていると、畑に人が見えたり、リアカーを引いている人がいたりして、「急に人が多くなってきたな」と思ったら、よく見ると全部カカシでした(笑)。
ここは四国を旅しているときに地域の方から教えていただいたのですが、この集落出身の人形作家の方が今でも新しいカカシを作り続けているそうです。珍スポットでもあるし、限界集落であることを活用した観光資源にもなっていて、素敵な村おこしだと思いました。
――面白いだけでなく、ちゃんと意味もあるのですね。他には?
「大迫牛乳店」も忘れられません。私はかわいい建物が大好きなので、いろいろ調べている中でたまたま見つけて、この建物を見るために広島まで行きました。
――でかっ(笑)!これは観光スポットなのでしょうか?
観光スポットではなくて、普通の牛乳屋さんなんです。牛乳パックの形をした建物がかわいいですよね。遠くから眺めると、より異様さが引き立ちます(笑)。
あと、静岡県の浜松市に行ったときに、こんな青看板があったんです。
――月まで3km? 宇宙センターでもあるんですか?
「月」というのは地名なんです。矢印が上を向いているので、何も知らずにこの看板だけを見ると、このまま月まで行けちゃいそうな気がしますよね(笑)。
――本当にいろんな種類の珍スポットがあるんですね。
そうなんです。珍スポ巡りをするときは、ある程度調べて行くんですけど、実際に目にすると「うわっ本当にあったー!」って嬉しさがあるんです。普通の観光では得られないような発見があることや、人との触れ合いが珍スポ巡りの楽しさですね。
ただ、働きながら行っているので、限られた休日でいかに効率よく回るかを考えたり、できるだけ費用を安く抑えたりする工夫も必要です。雪深いところだったり、山深いところに行ったときは、それぞれの土地土地の大変さの洗礼を受けたりすることもあります(笑)。
――珍スポ巡りを始めたのは、どんなきっかけだったのですか?
友人と熱海・伊豆を旅行した際、「熱海秘宝館」と「まぼろし博覧会」に出会ったことでした。熱海秘宝館は、“秘宝”を見て楽しむ、ちょっとレトロな大人のためのテーマパークです。熱海の観光地で回れるところはないかなと調べて、本当にたまたま行ったのですが、今はないような昭和の雰囲気とかユーモア、ギラギラした世界観に衝撃を受けました(笑)。
そして、伊豆を通ったときにバスからたまたま見えたのが「まぼろし博覧会」です。「あれは何だろう」と気になって後日改めて訪れたことが珍スポにハマるきっかけになりました。
まぼろし博覧会は、“キモカワイイ パラダイス”をコンセプトにした私設テーマパークです。広大な敷地には昭和レトロな品々や巨大なオブジェ、マネキン、動物の剥製など、館長のセーラちゃんが自ら収集した骨董品やアンダーグラウンドな芸術作品、今は亡きテーマパークから譲り受けたものなどがひしめきあい、カオスな空間が創り上げられていました(笑)。
――どんなところに惹かれたのでしょう?
何があるのかわからなくて怖いかんじがして、入るのをためらうんですけど、それでもちょっと見てみたくなる。そういう冒険心をくすぐられる雰囲気にすごく惹かれました。
館長のセーラちゃんも、見た目は変わっていますが、実は出版社の社長さんで、お話しするとすごく真面目な方なんです。皆さんを楽しませたいという想いで、懐かしの品々を収集していた方の遺品や閉館した珍スポットの展示物を引き受けて、こういう場所をつくったそうです。
「こんな場所にもっと行ってみたい!」と思って、いろいろ調べていくうちに珍スポットというものの存在を知りました。そこからですね、本格的に珍スポットにハマったのは。
私はもともとGoogleマップを見るのが好きだったので、珍スポットを探しては手当たり次第にピンを立て、まずはモチベーションを高めることから始めました(笑)。
――珍スポ巡りをするために、車も購入したとか?
最初は近場の珍スポットから行くようになったんですけど、珍スポットは駅から遠かったり、山奥にあったりするので、教習所に通って、2018年には車も買って。最初は通勤のためにとも思っていたのですが、車を購入したら圧倒的に効率よく珍スポ巡りができるようになって、気づけば年間400以上の珍スポットに行くようになっていました(笑)。
――SNSを始めたのは?
珍スポ巡りを始めてから、たくさん写真を撮ったり、記録をするようになったので、自分の中だけだと貯めちゃうだけなので、4年目くらいからメモ帳代わりに投稿を始めました。
最初は見てくれる人がすごく少なかったのですが、毎日続けているうちに少しずつ増えてきて。たまにバズった投稿があるとボンと増えたりして。去年投稿した爆速で回る理容室のサインポールの動画はすごくバズって、ニュースとかでも紹介していただきました(笑)。
――速っ(笑)! 今ではフォロワーが1万人近くまで増えていますね。
こんなにいろいろな人にフォローしてもらえるとは思わなかったので、びっくりです(笑)。
結構いろんな方から私の投稿を見て「ここに行きました」「旅行に参考にしています」とか、そういう話やリプライを貰えるようになって、すごく嬉しいです。
――これまでの歩みも聞かせてください。珍スポにハマる前は、何が好きだったのですか?
それが特になかったんです。中学・高校では部活に入ったこともなくて。子どもの頃はゲームとかマンガが好きで、将来はそういう仕事に就いてみたいとも思っていましたが、好きなことを仕事にする勇気が持てないまま、普通に会社に入って、普通に大人になって。
――今はどんなお仕事を?
製造業で生産管理の仕事をしています。この職業を選んだのも、正直に言うと、そこまで深い理由はなくて…。珍スポ巡りを始めるまでは、普通に仕事をして、それなりに楽しみを見つけて、うまく息抜きをしてやれたらいいな、みたいなかんじで暮らしていました。
でもやっぱり仕事に対して「しんどいな」と思うことはあって…。いろんな珍スポットに行くようになったのは、普通に「楽しみたい」という気持ちもあったんですけど、最初の1年間くらいは「日常生活から逃げられる」みたいな逃避行感覚が強かったです。
――珍スポットに行けば、日常を忘れられる?
そうですね。なので最初は友だちを誘って一緒に行ったりしていたのですが、「ここにも行きたい」「あそこにも行きたい」という気持ちがどんどん高まってきて。1人なら「今週行きたい」と思ったときでもすぐに行けるし、自分の好きなように計画できます。
だんだん1人で行くようになって、今はほとんど毎週1人で日本各地の珍スポ巡りをしています。全国のいろんな場所を旅するので、その土地の名物を食べたりすることもありますが、食事も珍スポットでしていることが多いです(笑)。
――人生で初めて夢中になったものが珍スポットだった?
そうなんです(笑)。それまでも、ちょこちょこいろんなものに手を出したりはしていたのですが、ここまで深くハマって、長続きしたものはなかったです。
――それほど深く珍スポットに魅了された理由は、何だったのでしょう?
珍スポットに行くだけでも楽しいのですが、話を聞くと、どうしてそれが珍スポットになったのか、その種明かしが聞けたりするので、そういう謎解きの過程もすごく楽しくて。ウケを狙ってやっている方もいれば、地元を元気づけるために面白いものをつくっている方もいます。
たとえば、福島県にある「原田楽園」は、招き猫や金の卵、神社、お地蔵様などがごちゃまぜになっていて、よくわからない世界観の超個性的な公園です(笑)。
でも実は、丸や運送という会社の社長さんが震災からの復興を祈願してつくられたそうです。
そういう話を聞くと「すごいな」って思うんですよね。
珍スポットをつくっている方も、実はいろんな想いでつくられていることが多いんです。最初は「ただ変なおじさんがつくっているのかな」と思っていたのですが、それだけではない理由を知ることができるのが、珍スポ巡りの魅力の1つですね。
珍スポットってちょっと荒削りなところもあったりするんですけど、そういうところも含めて、その人の想いが伝わってくるようなかんじがするのが、すごく好きです。
――7年間で2000以上もの珍スポットに行くのは、ものすごい情熱だと思います。SNSの反響が少なかったりして、モチベーションが下がったりすることはありませんでした?
それはなかったです。SNSに投稿しても反響が少ないことはたくさんありますが、私はもともと自分のためだけにやっていたので、あまり反響がなくても気にせず、ただただ毎日、淡々と続けていました(笑)。
ただ、やる気をもらったという意味では、展示は大きかったです。今回、長野で開催した「珍トピア」は、私にとって4回目の個展で、それまでの3回は地元の岐阜でやっていたんです。地元なら知り合いが来てきてくれる可能性がありますが、長野にはあまり知り合いもいません。
初めて県外でやった個展だったので「誰も来てくれなかったら悲しすぎる…」とドキドキしていましたが、いろんな方に来ていただけて。「いつも見ています」とか「旅行の参考にしています」と声をかけていただいたりして、わざわざ長野まで来てくださった方もいました。
トークイベントにも、いろんな方に来ていただけて。いろんなジャンルの珍スポットを紹介したら「珍スポットの概念が変わりました」とか「街歩きの新しい視点をもらいました」というお声をいただけたりして、すごく嬉しかったです。
今までずっと自分のためだけにやっていたのですが、いろんなところに見てくださっている方がいることを実感できて、やっぱりモチベーションが上がりました。
――この個展のために『ニッポン珍紀行 珍トピア』という本も作られたんですよね。
はい。日本には、まだまだ面白いところがたくさんあるので、それを知ってほしいという想いでつくりました。この本では約30の珍スポットを紹介していて、好奇心がかきたてられるような場所を中心に選びました。
――夢を見るための宿泊施設とか、空気を御神体にしている神社とか、不気味な目みたいな駅とか、どれもインパクトがありました(笑)。
どれもすごいですよね(笑)。私の推しは「ピラミッド元氣温泉」です。ここの館長さんは長年ピラミッドを研究されていて、ここはピラミッドパワーと那須の温泉の効能を融合させた夢の施設なのだそうです。泉質もピカイチですが、怪しさも満点で大好きです!
この本は、今は展示会で売っているだけですが、これからネット通販やコミケみたいな即売会に出たりして、いろいろな人に見てもらえる機会を増やしていきたいです。
――仕事以外の趣味に打ち込むことで、生活がどのように変わりました?
毎日が楽しくなったのはもちろんですが、珍スポ巡りで得たスキルが意外と役に立っていて、仕事も上手くいくようになりました。
珍スポ巡りは、珍スポットを楽しむのと同時に、行き先のリサーチやプラン立てなど、すべて自分の責任でやらないといけません。「ここはなんでこうなったんだろう」と疑問に思っても、普通の観光地と違ってガイドの人が教えてくれるわけでもありません。
行きたい場所がたくさんあるので、効率よく回れるように計画を立てたり、せっかく遠くまで来たのに何も知らずに帰ってくるのはちょっと悔しいので、自分から人に話しかけて、積極的に話を聞くようになって。こういうスキルって、今の仕事にもすごく活かせるんですよ。
どんな職業もそうだと思いますけど、段取り力や計画力、行動力、コミュニケーション力って大事ですよね。生産管理の仕事は、受注から出荷まですべての工程を見ないといけません。珍スポ巡りで得たスキルを活かして、効率よく段取りを組んだり、いろんな工程の方に積極的に声をかけて最後まで見届けることがしっかりできるようになりました。
最初は仕事や日常生活からの逃避行的なかんじで珍スポ巡りを始めたのですが、今では仕事とプライベートのメリハリをつけて、どちらも楽しく打ち込めています(笑)。
――素晴らしいですね。仕事やプライベートが充実するように自分の生活を変えるためには、どんなことが必要だと思いますか?
日常生活から逃避できるような趣味とかきっかけがあるといいんじゃないかなと思います。私は、珍スポットに行くために定時に終われるように仕事を効率よくこなしたり、有給をとって珍スポ巡りに行きたいので、それまで以上に毎日の仕事を頑張るようになりました。
私は子どもの頃からインドア派で、もともと全然行動的ではなかったし、人に話しかけることも極力したくないタイプでしたが、珍スポ巡りを始めたらそういう性格も変わってきました。
今の時代、自分から知らない人に話しかけると怪しまれたり、避けられたりするんじゃないかと常に思うんですけど、珍スポットに行って実際に話しかけてみると、意外とそんなことはなくて、逆に親切にされたり、その土地の歴史をいろいろ教えてもらえたりするんです。
人の優しさに触れるような、そういう経験を少しずつ積み重ねていくことで、自分の殻がどんどん破られていったような気がしています。今では「人って意外と自分から歩み寄ったら助けてくれるんだな」と考えるようになりました。
――珍スポットに出会って、行動も考え方も変わってきたのですね。
自分が楽しいものを見つけて続けていくと、どんどん面白くなって、世界が広がって、自分も変わってきます。最初は逃避でもいいので、そういう何かが見つかるといいですよね。
――今後の夢や目標は?
いろいろあります(笑)。とりあえずは沖縄に行って47都道府県を全部制覇したいです。それから珍スポットの地図をまとめて、また展示の機会などがあれば、いろんな方に見てもらって、日本の面白さみたいなものを知ってもらえるきっかけがつくれたらいいなと思っています。
また「自分が大好きな珍スポットを残したい」という想いが強くなってきているので、本を出せたらいいなと思っています。今回つくった自費出版の同人誌的なものではなくて、出版社から出して、もっと多くの人に読んでもらえるようにしたいです。
あとはやっぱり行きたい珍スポットを全部回りたいですね。これを見てください!
今もGoogleマップにピンをさしているのですが、めちゃめちゃすごいことになっています。行きたい珍スポットが4000以上もあるんですよ(笑)。
――4000以上ですか!(笑)
最初はちょこっと珍スポットに行って飽きたらやめようと思っていたのですが、そう思っていたのは最初の1年くらいで、いろいろ調べていくと、今ではなくなりつつある昭和のテーマパーク以外にも、いろんな種類の珍スポットがあるので、逆にどんどん行きたい場所が増えてしまって。今では「生きているうちに何とか全部回らなきゃ」みたいな感じになっています。
――日常からの逃避行から始まった趣味がライフワークになったのですね。
そうですね。少しずつ、少しずつ、遠くに行くたびに、どんどん楽しさが増していって、自分の世界が広がっていく喜びがあります。いつも新しい場所に行くたびに「今度はどんなワクワクが待っているんだろう」みたいな気持ちになるんです。
今の数で、今のペースで回り続けたら、たぶん40代半ばくらいでいったん4000ヶ所は全部回れるんじゃないかなと思うんですけど、その間にもまた行きたい珍スポットが増えていくと思うので、たぶん一生終わらないです(笑)。
――今後のご活躍も楽しみにしています。本日はありがとうございました!
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この記事を編集した人
タニタ・シュンタロウ
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。著書に『スローワーク、はじめました。』(主婦と生活社)など。