新納一哉さん、ゲーム開発にかける想い「やりたい気持ちに、ウソをつきたくない」
2020.07.29
生活・趣味
2023.09.4
第25回記事「ひとが育つまち・7—「まち」は生活の時空の人的代謝(1)」はこちら
この記事を書いた人
牧野 篤
東京大学大学院・教育学研究科 教授。1960年、愛知県生まれ。08年から現職。中国近代教育思想などの専門に加え、日本のまちづくりや過疎化問題にも取り組む。著書に「生きることとしての学び」「シニア世代の学びと社会」などがある。やる気スイッチグループ「志望校合格のための三日坊主ダイアリー 3days diary」の監修にも携わっている。
子どもを巻き込んで、子どもと一緒になってまちをつくる活動は、第25回記事で紹介した豊川地区だけではありません。益田市内の各地区の地域自治組織と公民館とが連携し、その地区特有の資源を活用して、学校を巻き込んで取り組んでいます。西益田地区も例外ではありません。この地区は、清流・高津川が流れる風光明媚なところです。
西益田地区も例に漏れず、高齢化と人口減少が進んでいます。2014年の高齢化率は約36パーセントでしたが、2020年には44パーセントとなり、2036年には人口の半数が高齢者となって、限界地区になると予測されています。人口も、2014年に約4300名だったのが、2020年には3900名、そして2036年には2600名となることが予測されているのです。
しかし、だからこそ、子どもたちを育てることで、地域が一丸となって、地域を盛り上げる動きが活発です。その中心が、「西益田地区つろうて子育て協議会」と地域自治組織である「西益田まちづくりの会」、そして公民館なのです。
「川に親しむ地区」を自ら任ずる西益田地区では、高津川にちなんださまざまな活動が繰り広げられています。鮎の放流と鮎つかみ、鮎飯教室、投げ網体験、川舟体験、堤防マラソン、凧揚げ大会、そして川流れの会でのカヤック体験や手作り筏の放流など、年中何かしらの活動が行われています。
その中でも圧巻なのが、筏流し大会でしょう。手作り筏を流す大きなイベントで、毎年、800名ほどの住民が集まっては大騒ぎになるといいます。
このほか、地区の運動会には1500名もの住民が参加し、夏に開かれる灯籠祭りは中学生が企画・運営し、地区の公園も中学生の発案でおとなが手伝って芝植えをし、看板を作成して、地区のいこいの場として整備するなど、子どもを含めた住民自身の手による活動がさまざまに展開しています。
この地域活動の担い手である「西益田地区つろうて子育て協議会」の合い言葉が「いいまちにしますダ!」です。西益田がかけられているのは、おわかりだと思います。そして、そのスローガンが「子どもも大人も「まちづくりの主体者」になろう!」です。
この協議会の取り組みには、「名前で呼び合える関係性・子どもを育む組織づくり」「ふるさと教育を軸にする一貫した学習プログラム」「地域自治組織の設立と活動の活性化」「保幼小中・特別支援学校教職員との合同研修」などがあります。常に、地域自治組織と学校との連携・協働が意識され、実際の活動の中に組み込まれているのです。
このような「西益田つろうて子育て協議会」の活動も、先の豊川地区と同様、益田市全体の「ひとが育つまち」への展開とともに、次のような過程を経て、今日に至っています。
2004年の合併を機に、公民館が「地域は一つ」を目指した取り組みに着手します。2005年には西益田小学校放課後児童クラブ(わんぱくクラブ)が発足し、翌年にはそれが放課後子ども教室(わんぱくハウス)へと発展し、地域ぐるみで子どもを育てる組織づくりが進みます。2008年からは、文部科学省が学校支援地域本部事業を展開するにあたって、益田市では「教育協働化事業」が進められます。
西益田地区では、地元の横田中学校区をモデル地区として、教育協働化地域推進本部を公民館に置いて、小・中学校で事業を進め、放課後児童クラブと放課後子ども教室とが一体化する「西益田方式」を形成します。その過程で、子どもたちを地域全体で受け止めて、おとながともに育てる活動が活発化し、2011年には「優れた地域による学校支援活動の推進」文部科学大臣表彰を受けることになりました。
この過程で大切にされたのが、「子ども縁・地縁・志縁による結びつきの再構築」「対話と共通体験を大切にする新しい活動づくり」でした。
そして2011年、「ふるさと教育」を導入し、テーマを「高津川」とした取り組みが進められることとなります。
横田中学校区では、保育園と小中学校が「高津川」をテーマにして、生活科・総合的な学習の時間のカリキュラムを作成・実施し、幼児期から中学生期までの系統的・連続的な学習活動を実現した他、さらに「鮎体験交流」を組み込んで、年長児・小学校4年生・中学校3年生・地域のおとなが毎年出会い、つながって、交流を続ける場をつくっています。
こうした動きが、「西益田つろうて子育て協議会」だけでなく「つろうて協力者の会」を生み出し、いまでは、家庭や学校だけでなく、地域のおとなたちまでもが一体となって、子どもを見守り、育てる仕組みがつくられています。
この取り組みの中で、「西益田つろうて子育て協議会」の重点が子どもへとシフトし、「子どもたちの地域のおとなや上の学年の子どもへの憧れを培う」「学校帰りに公民館に立ち寄る子どもたち」「子どもたちの「もっとやりたい!」を応援する」が重視されることとなります。
そして、2020年からは「子どもも大人も「まちづくりの主体者」になろう!」をスローガンに、子どももおとなも「次々に」「思いのままに」つながり、動き出す活動が展開しています。
それはたとえば、中学生が発起人となって、企画・運営し、コロナ禍でイベントが軒並みと中止となるなか、三密を避けるようにして行われ、600名もの住民が参加した竹灯籠イベント、自治会長が中心となって、子どもたちの提案を受けて行われた、地区の公園のリノベーション事業、そして子どもたちと公民館・「西益田まちづくりの会」のおとなたちとが出会い、学び、調べ、西益田地区のこれからを発信した「西益田のまちをもっと幸せな街にしよう」の集まりなどを挙げることができます(※)。
※益田市『西益田地区つろうて子育て協議会』パンフレット「子どもも大人も「まちづくりの主体者」になろう!」より
しかも、これらの地域での活動が、保・幼(認定子ども園)・小・中・特別支援学校、そして高校生・地域のおとなと、既述の「ライフキャリア」のin・about・for・withに沿って構成されているのです。それはたとえば、次のような活動の配置になっています(※)。(★)がついている活動は「ライフキャリア」教育プログラムの一環に位置づけられています。
※西益田つろう手子育て協議会『子どもも大人も「まちづくりの主体者」になろう!』パンフレット「—いいまちにしますダ!つろうて子育てプロジェクト—」より
●inの時期「地域の中でどっぷり遊ぶ」
◎保育園・認定子ども園:稚鮎の放流・川遊び交流・高津川鮎体験交流(★)・鮎体験交流の振り返り・秋みつけ交流・凧揚げ大会・学校体験・地域貢献体験
◎小学校1年生:下校見守り・サツマイモづくり・川遊び交流・秋みつけ交流・むかしからのあそびをたのしもう・学校体験
◎小学校2年生:サツマイモづくり・まち探検・生んでくれてありがとう・地域の人ありがとう会
◎特別支援学校小学部(低学年):川遊び・高津川鮎交流体験(★)・小学校との交流・オカリナ鑑賞
●aboutの時期「地域の中でしっかり学ぶ」
◎小学校3年生:特別支援学校との交流・ゴミ調査と生き物調べ・警察署見学
◎小学校4年生:郷土の偉人調べ・郷土の文化遺産調べ・高津川の学習・丸山の樫について学ぼう・高津川鮎体験交流(★)
◎小学校5年生:夢先生(★)・間伐体験・ミシンの授業・命の授業
◎特別支援学校小学部(高学年):川遊び・高津川鮎交流体験(★)・小学校との交流・オカリナ鑑賞
●forの時期「地域のために行動する」
◎小学校6年生:益田版カタリ場(★)・禁煙教育・ミシンの授業・西益田の未来!(★)・竹灯籠制作
◎中学校1年生:水辺の安全教室・命の授業・特別支援学校交流学習・竹灯籠制作
◎特別支援学校中学部:川遊び・書き初めアドバイス・さまざまな楽器の音色に触れよう(ギター・オカリナ・和太鼓・トーンチャイム)・正月遊び・注連飾りづくり
●withの時期「輝く地域の大人と協働する」
◎中学校2年生:保育実習(★)・益田版カタリ場(★)・ギターの授業・竹灯籠制作
◎中学校3年生:高津川鮎体験交流(★)・川漁の授業・保育実習・新職場体験(★)・ギターの授業・竹灯籠制作
◎高校生:キャリアサポート授業(教育課程内)・小学生との交流(益田版カタリ場)
◎特別支援学校中学部:お囃子の演奏体験・中学校との交流
◎特別支援学校高等部:地域清掃(公民館など)・ニシマスバーガーをつくろう・地域の方へインタビューしよう
そして、これらの子どもの成長に即した活動プログラムの提供と実施に同伴するように、子どもたちのin・about・for・withの全過程を通して、次のような活動が提供されるのです。
◎公民館を核とした地域の活動:稚鮎の交流・釣り教室・親子川流れ・学びの場・鮎体験交流の振り返り・凧づくり&凧あげ大会・新みずいろ公園プロジェクト・おたすけレンジャー
◎子どもの学び(活動)の場・子どもも学べるおとなの学びの場:PTA・ボランティアハウス(放課後子ども教室)・わくわくクラブ・サッカー・バスケットボール・野球・子ども会・つながるクラブ
◎子どもたちの主体的な取り組み・活動:中学生/親子川流れ交流会の企画運営・灯火祭の企画運営。高校生・大学生/YOKOTA Youth Up Project 2020
子どもたちをめぐって、その成長の時間軸と地域社会の空間軸とを縦横に編み合わせて、子どもだけでなく青年期にある高校生やおとなまでもが楽しくて、一生懸命になれるような活動が配置され、その過程で、子どもたち自身が成長し、地域のために活動を企画・運営する力をつけ、実際におとなたちを巻き込んで、イベントや事業を実現する、こういう仕掛けが組み込まれているのです。
これだけのことに子どもを中心に考えて取り組んでいる地区では、子どもたちもおのずと活動的になります。私の訪問を受け入れてくれた横田中学校3年生の仲良しグループの子どもたちは、次のように話してくれました。
「中学1年生の時に公民館からの声かけを受けて、地域活動にかかわるようになった。中学2年生で生徒会の執行部に入ったとき、会長のKくんが地域とのかかわりを大切にして、何か活動をしたいと提案。生徒会執行部にいると、地域のおとなたちがどれくらい子どもたちのために一生懸命になってくれているかよくわかったので、なんとかお返しができないかと考え始めた。」
「その話を地区のおとなに話したら、皆、喜んで受け容れてくれて、何か提案はないか、と応えてくれた。そこには、子どもの頃から皆が公民館で交流し、川に親しむ活動や筏体験、それに凧揚げなどをおとなと一緒にやっていて、おとなとの距離が近かったことも影響している。また、放課後子ども教室(ボランティアハウス)でおとなと交流があったことも大きな意味があった。子どもたちは、いつも地域のおとなとかかわりがあり、しかも、その都度おとなが入れ替わるので、いろいろなおとなと関係を持つことができて、心理的なハードルもとても低かった。」
「その結果、学校を通さずに直接、自分たちと地域のおとなとがつながって、子どもがやりたいことを提案すると、おとなが「よしきた!」と受け止めて、一緒にやってくれる関係ができている。そして、公民館が地元の情報の集積所でありネットワークの拠点でもあるので、子どもが公民館にこんな活動をしたいと相談すると、「それならこの人がいい」と紹介してくれることも、子どもにとっては、とても心強い。公民館は、何かを解決してくれるのではなくて、つないでくれる役割を担ってくれている。」
「こういう関係が、小学校の頃からあったので、中学校に入ると自然と、今度は自分たちが地域で活動する番だという意識が湧いてくる。話せば受け止めてくれて、提案してくれるという安心感と信頼感があるので、なんでも物怖じすることなく話ができるし、自分のことを尊重してくれていると感じる。」
「小学生の時代には、ボランティア活動というとおとなの声かけでやっているような感じがしていたけれど、中学校に入ってからは自分たちで地域のために何かしたいという思いがボランティア活動につながっているように感じる。自分が活躍できる場を自分で地域につくっているようにも思う。こうしているうちに、気づくと引っ込み思案だった自分が積極的に地域に出て、おとなの人たちと交流して、何か提案して、自分でやろうとしていることに気づいて、驚いたりすることになる。それがまた、うれしくて、もっとやりたくなってくる。なんだか、心がひらかれてくる感じがする。そういう体験を重ねている。」
「ちょっと変ないい方だけど、15年生きてきて地域大好き人間になっている。中学生が積極的に地域に出て活動するので、教師も地域を信頼しているし、子どもたちを地域に送り出そうとしている。そういうことで、地域と学校ともよい関係ができている。」
「親からも、「あんた、中学に入ってから何事にも積極的になったね。性格が明るくなった」とよくいわれる。自分でもそう感じる。それはまた小学生の頃から地域のおとなとのつきあいがあって、中学で自分のやれることを提案して、受け止めてもらって、一緒にやってもらうことで、自分に自信がつくし、地域のおとなにももっと信頼が生まれてきて、そういうことの中で、自分が社会に役に立てるんだと思うようになったこと、こういうこととかかわりがあるように思う。」
(次回につづく)
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