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仕事・働き方
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#はたらくモチベーション
こんにちは。やる気ラボの川崎です。
やる気の出ている時間。自分のやりたいことをしている時間。
それは、とても集中力が発揮されている時間ではないかと思います。作業に没頭して、ついつい時間を忘れてしまったという経験が、みなさんにもあるのではないでしょうか。
やる気と集中力とは、なんだか深い関係がありそうです。
そこで、今回は“世界一集中できる環境”を目指しているワークスペース「Think Lab」に潜入。運営・株式会社ジンズ(本社:東京都千代田区、以下ジンズ)の井上一鷹さん・石井建司さんにその魅力をうかがいました。
Think Lab(シンク・ラボ)
東京都千代田区にある、「集中」をテーマとする会員制ワークスペースです。人間が集中できる要素を科学的に分析し、視覚・聴覚・嗅覚などの五感にうったえかけるスペースを構築。あふれんばかりのコミュニケーションツールに翻弄され“集中難民”となりがちな現代人に向けて、「一人で最大限集中できる環境」を提供し、好評を博しています。
>>>公式ウェブサイト
川崎 やる気ラボの川崎です。本日はよろしくお願いします。さっそくですが、なぜ「Think Lab」をつくることになったのか、お話をお聞かせください。
井上 きっかけは、もともと当社(ジンズ)で開発していた「JINS MEME」というメガネ型のウエアラブルデバイスです。
井上 このメガネは人間の視線移動や瞬きをセンサーでとらえ、かけている人がいま集中できているのか、できていないのかを測定することができます。このデバイスを使って、当社はのべ1万人程度のデータを取り続けていました。
そのデータを分析してみると、オフィスで働くビジネスパーソンの約9割が、「オフィスでまったく集中できていない」ことが分かってきたんです。
井上 例えば私の場合、喫茶店や公園の方がオフィスの2倍以上集中できるというデータが検出されました。このようなビジネスパーソンは少なくありません。
川崎 オフィスというものは本来ビジネスパーソンが仕事をするためにあるはずですよね? それなのに、どうして仕事に集中できないんでしょう?
井上 現代のオフィスはコミュニケーションによる「Co-work」に偏りすぎているんです。人間は何かに集中するために23分ほどの“準備期間”がかかると言われていますが、一方でオフィスでは11分に1回は声をかけられたり、メールが届いたりして作業が中断され、集中力が途切れます。これでは、深く集中すること(Deep Think)はできません。
川崎 そのような環境だと、なかなかやる気は出てこないでしょうね。「いまからあの仕事をしよう」「あれを試してみよう」という思いがあって行動を起こそうとしても、集中できない環境では長続きしなさそうです。
井上 カギを握るのは環境なんです。環境を整えないと、気持ちよく集中できないし、やりたいことに没頭するのは難しい。限られた時間でいいアウトプットを出すことはなかなかできません。
そこで、「どうすれば集中できるワークスペースを作れるか」を考え始めるようになりました。
「JINS MEME」によって人間の集中力に関するデータを数多く持っている当社ならば、効果的な空間を作れるのではないかと思ったのです。そうして、数々の検証を重ねながら形になったものが「Think Lab」なんです。
川崎 集中できる環境をつくるには、どこがポイントになりますか?
井上 「要素」「構造」「準備」の3点があると思っています。
当社では「JINS MEME」のデータから、人間が集中力を高めるためには25の「要素」があると分析しました。「Think Lab」はそうした要素をもとに設計されています。見える範囲に緑の植物をどのていど置けばいいのか、どんな音が集中するために心地よいのか、どんな椅子が効果的なのか――。それぞれの分析を行い、科学的に集中しやすい「要素」を整理しました。
井上 例えば、入口には神社の参道をイメージした暗く長い細道を入れています。これは、意図的に視覚と聴覚を制限して、外の都会の喧噪から「Think Lab」という「異世界」への没入感を高めてもらおうという「構造」です。「ここは、コミュニケーションに満ちあふれた外の世界とは違うんですよ」という。
川崎 この通路、奥のほうに「LIVE YOUR LIFE」(自分の人生に集中しよう)というメッセージが小さく書かれているのが良いですね。ほかに見るものもないですから自然と視線がそこに集中しますし、しだいに「よし! やるか!」というやる気が沸いてきます。
井上 この通路、私はお客さまに「やる気のスイッチが入る通路です」と説明しています。ここを歩いている間に、「せっかく時間を作ってThink Labに来たんだから、頑張ろう!」という意識がつくられます。
川崎 集中して何かに取り組むための体勢が整うわけですね。
井上 そうです。こうした「準備」をするのはとても重要なんですよ。「JINS MEME」のデータでも「いまからこれをやる!」と宣言してから行動するほうが、何も宣言せず行動するよりも集中力が高まることが実証されています。
川崎 準備といえば、そもそも「Think Lab」自体、東京の飯田橋、高層ビルの29階という、“わざわざ行かなければならない”位置にありますよね。
井上 そうですね。けっこう手間がかかると思います。
川崎 しかし、いまのお話を聞くと「わざわざ行くからこそいいのでは?」と思えてきます。
井上 はい。一般的にワークスペースというと、そこかしこに点在していて気軽に使えるのが好まれるイメージを持たれていますが、私はむしろ「今日はThink Labに足を運んで、集中しよう」と決める瞬間にこそ、意味があるんじゃないかと。
川崎 やる気を入れるシチュエーションを用意することで、集中力が発揮されるんですね。
川崎 いよいよ、「Think Lab」の中身に迫ります。先ほどの薄暗い通路を抜けると、いっきに明るく開放感を感じる空間になりました。植物がたくさん置かれていますね。
石井 視野角120度以内に最適な量の植物を置くと、ストレスが低減し、集中力が増加すると考えられています。視界における植物の割合=緑視率を、高すぎず少なすぎず、最適なバランスにするのがポイントです。もっとも良いのは10~15%程度となります。
川崎 どこからともなく、水の音も聞こえてきます。
石井 自然界の川のせせらぎや鳥のさえずりといった音を、ハイレゾ音源で再生しています。耳で聞いていて心地良いというのはもちろん、耳では聞き取れないような“肌で感じる”高周波まで分析して、集中力を高められる音を流すようにしています。
石井 ワークスペースでは、目的に応じたデスクを3列に並べています。机の方向はすべて同じ向きにし、ほかの人と目が合って集中が阻害されることがないようにしています。
川崎 3列のデスクはそれぞれ、何か特徴があるんですか?
石井 ひとことで言うと「視線の角度」が違うんです。
石井 窓際のデスクは身体をゆったりと傾け、視線が上方に向かうようにしています。視線が高いと、クリエイティブなアイデアを生み出す「発散思考」がしやすくなるんです。
逆に、通路側では背筋をしっかり立てる姿勢を促しています。視線が低くなると、資料に漏れや間違いがないかなどの「収束思考」(ロジックチェック)がやりやすくなります。真ん中の列は、その中間です。
川崎 仕事の内容によって、デスクを使い分けられるんですね。
石井 このほか、無料で利用できるカフェスペースなどもあります。集中しやすい脳の状態をつくりだすため、カフェインを含むコーヒーや、リラックス効果がある紅茶、血糖値を上げすぎない低GI食品などを常備しています。
川崎 瞑想をしたり、休憩をしたりと、適度にリラックスできる空間もあるのは嬉しいポイントですね。
川崎 「Think Lab」をもっと良くしていくために、今後どのようなことをしたいと考えていますか?
井上 さきほどの「準備」のお話にも関わるのですが、「Think Lab」のような空間に、どうやってより“やる気”のある心持ちで入ってきていただくかという体験づくりに、いまは力を入れています。
川崎 より主体的な気持ちをもって「Think Lab」を使っていただけるようにしたい、ということですね。
井上 そうです。いくら集中できるワークスペースを用意したところで、そこに入ってもらって「じゃあ使ってください、集中してください」というだけでは、本当の意味での「LIVE YOUR LIFE」にはならないと思うんです。「やる気を出して!」「集中力を出して!」とこちらから言っている時点で、その人はやる気が出ていないし、集中できていないわけですからね。いずれも受動的な印象がぬぐえません。
私たちはもっと、自発的・能動的に何かをするという体験を提供したいと思っているので、そのための設計を考えているところです。
川崎 その点では、先ほどの「やる気のスイッチが入る通路」のような仕組みがカギになりそうですね。
川崎 井上さんご自身は、自発性・能動性――つまり“やる気”の出し方については、どう考えていますか?
井上 そうですね…。例示として、まず、私自身のやる気の話をしていいですか?
川崎 ぜひお願いします!
井上 私がなぜ仕事を頑張っているのかというと、それは「母を認知症にしないため」なんです。
川崎 そうなんですか!?
井上 きっかけは高校2年生のときに遡ります。母方の祖母が認知症になったんです。母は祖母の介護には大変苦労したようでした。そのせいか、母は「自分が認知症になったら安楽死させてくれ」なんて言うんですよ。当然そんなことはさせたくないですから、認知症の研究医になろうとしたこともあったんです。結果として医学部進学はしなかったのですが、認知症対策をしたいという気持ちは持ち続けていました。
川崎 ふむふむ。
井上 転機は、ジンズに入社して「JINS MEME」の開発に携わるようになったことです。「脳トレ」や認知症研究で知られる川島隆太先生にお会いし、共同開発を行うことが決まりました。やがて、高齢者の目の動きを計測してみると、目の動きのスピードと重心バランスが、健常者と認知症患者ではあきらかに異なっていることが分かってきたんです。
そうして、私は「認知症対策を自分の一生の仕事にしよう」と思うようになりました。自分のつくったものが、母をはじめとする多くの人の役に立てる。そう実感できるからこそ、やる気が沸いてくるんです。
川崎 そんな開発秘話が……。すごくいいお話ですね!
井上 ――と、思うじゃないですか?
川崎 ……え?
井上 いまの話、後付けで考えたものなんですよ。
川崎 えぇー!?
井上 もちろん、ウソじゃないんですよ? どこにもウソはありません。でも、これは「JINS MEME」開発中に「認知症対策をしよう!」と頭にハッキリと思い描いていたわけではなくて、あとになって整理したらこんなふうにまとまった、というものなんです。
大切なのはここだと思うんです。やる気の出し方は、後付けでもかまわないから「人に話して気持ちがいいストーリー」を作ることではないでしょうか。それができると、自分の中でハッキリとした理屈が見えてきて、自分のやっていることに芯がしっかり通ります。そうなれば、やる気って出てくるものだと思いますよ。
川崎 自分の行動をふりかえり、自分は何が合っていて、何に興味を持っていて、これから何をしたいのかを考えるのが大事だと。
井上 まさしく、ふりかえりですね。
人間は、1日4時間しか集中力を保てないと言われています。1年なら1400時間です。一生のうち仕事に打ち込めるのはせいぜい50年程度でしょうから、集中して仕事に取り組める時間は一生のうち5万時間程度しかありません。
一方で、人間がひとつのことを極めるためには1万時間が必要だと言われています――この「1万時間の法則」が正しいかはいまも論争が続いていますが、ひとまず正しいとしておきましょう。そうなると、人間が一生のうちで極められるのはたったの5つしかない、ということになるわけです。
だからこそ「いまやっていること、いままでやってきたことは、人生の5分の1をかけるに値するものなのだろうか?」……と、自分に向かって問い返すことが大事なのだと思います。
川崎 そうするうちに、集中したい、没頭したいと思えるようなことを見つけられたら理想的ですね。
井上 あとは、「Think Lab」のように集中力を徹底的に後押しする環境を活用していただくのも良いんじゃないかと思います。
「Think Lab」 で2時間ほど集中するのって、けっこうつらいし、疲れるんですよ。いわゆる「やらせれ仕事」は続かないものです。自分を、ある種強制的に「集中せざるを得ない環境」に放り込むことで、自分が何をしたいかを考え直すきっかけになるかもしれません。
川崎 ありがとうございます。最後になりますが、読者のみなさまに向けてメッセージをお願いします。
井上 やる気になって「集中すること」「没頭すること」。これは、誰にとっても必要なものだと私たちは考えています。
チクセントミハイの「フロー体験」に関する研究によると、人類には三種類の幸せがあると言われています。
一つめは、意義(役に立つこと)。
二つめは、快楽(気持ちがいいこと)。
そして三つめこそが集中(何かに没頭すること)です。
集中と、ほかの二つとでは大きな違いがあります。意義・快楽は相対的なもの、つまり「他者と比べて意義があるか・気持ちいいか」という点に主眼が置かれるため、どうしても競い合い・奪い合いになってしまいがちです。
しかし、集中すること。これは誰とも競い合わず、誰にでもできることです。そのため、集中できる環境でやる気の出ている人を増やすことは、世の中の「幸せ」の総量を増やすことにつながるのではないか――と、私たちは考えています。
「Think Lab」では今後もデータ検証を続けながら、最高に集中できる環境づくりを目指して、改良を重ねていきます。 今後も多くの方が、自分のやりたいこと、やる気になれることに心から没頭できるよう邁進していきたいと思います。ご期待いただけたら幸いです。
【取材を終えて】
今回、「Think Lab」の取材を通して最も感銘を受けたのが、集中できる環境づくりのために何が求められているのかを、エビデンスをもとにしながら常に考え続けるという姿勢です。
それがあるからこそ、Think Labは現状で完成形となるわけではなく、これからもより改良を重ねられていくのでしょう。
世界一集中できる環境を目指すワークスペース――。その進化・深化に、今後も目が離せません。
>>>Think Lab 公式ウェブサイト
この記事を編集した人
川崎 健輔
1987年生まれ。教育業界のWeb編集者です。2歳息子の育児、奮闘中。小学生時代はゲームボーイと受験勉強ばかりやっていました。最近はリモートワークが続いているので甚平を仕事着にして頑張っています。バームロールを与えられると鳴きます。
(Twitter ▶ @kwskknsk)