新納一哉さん、ゲーム開発にかける想い「やりたい気持ちに、ウソをつきたくない」
2020.07.29
仕事・働き方
2022.01.13
中村圭佑(なかむら・けいすけ)
1987年生まれ。千葉県出身。株式会社セガにて、UFOキャッチャーなどを含む10機種以上の設計開発に携わる。育児休暇中に刀の魅力にはまり、「刀を部屋に飾って毎日眺めたい」という気持ちから、自分で展示ケースを製作することを決意する。2018年、「刀箱師」として活動開始。株式会社Circumo設立、同代表。2020年、製作した展示ケースがOMOTENASHI Selection2020受賞。
ホームページ:刀箱師 katana case shi
――刀に関する仕事といえば「刀鍛冶」を知っていましたが、「刀箱師」という箱を作る職人さんもいるんですね。
いえ、「刀箱師」というのは私が考えた造語なんです(笑)。職人というわけでもなくて。仕事としては、刀を飾る展示ケースの設計がメインです。現代のモダンな部屋に合うようなデザインや形を考え、また刀が最も美しく見えるライトの位置を緻密に計算して図面に起こしています。
――刀の魅せ方を考える仕事なんですね。
そうなんですよ。刀ってどれも同じように見えるかもしれませんが、傾け方や光の当て方によって、刀全体のたたずまいや刀身に浮かび上がる模様の見え方が全然ちがうんですよね。いかに刀を美しく魅せるかということに苦心しながらケースを作っています。
――いつ頃から刀に興味を持つようになったんですか?
刀との最初の出会いは小学3年生のときでした。父と一緒にデパートでやっていた刀の即売会に行ったんです。父は刀に興味があったわけではないんですが、珍しいイベントだったので連れて行ってくれたんですね。そのときに短刀と呼ばれる小さい刀を持たせてもらい、「刀ってなんてきれいなんだろう」と思いました。その感動があったのと、祖父が本物の刀を所有していて、手入れする様子を間近で見たことがあり、興味を持つようになりました。
とはいえ当時は子どもでしたから頻繁に実物を見るということがなく、のめりこむまではいきませんでした。しばらくしたら忘れてしまっていましたね。高校生のときにふと刀のことを思い出し、図書館で刀の本をたまに眺めてまた興味を持ち始めたんですが、やっぱり実物を見る機会はなく。いっそのこと買えないかとオークションサイトで実際に入札しようか悩んだこともありました(笑)。結局、日本刀という武器を買うことに抵抗があり勇気が出ませんでしたが。当時は家族を説得できる自信もありませんでしたしね。興味はあっても趣味といえるほどにはなりませんでした。
――大人になるまでのめりこむ機会がなかったんですね。
ええ。それが30歳で子どもが生まれて育児休暇を取ったのが、刀にのめりこむきっかけになったんです。育休中、子どもを見ながら自分のことについて考える時間が増えて。「いまの仕事をずっと続けていていいのかな」「もっと心から楽しいと思えることを仕事にできたらな」とこれまでの人生を振り返っていました。そのとき、子どもの頃に好きだった「刀」のことを思い出して。「そういえば自分って刀が好きだったな!」と。
――その後はどんな行動を起こしたんですか?
また本物の刀にふれたいなと、現代刀匠さんが主催する刀のお手入れ講座に参加しました。そこで実際に刀を手に取らせてもらうと、刀身の輝きや模様の美しさを前に「やっぱり刀はきれいだ」と虜になってしまって(笑)。その半年後には自分用に購入しました。
――子どもの頃に実現できなかった憧れが現実になったんですね。中村さんが考える刀の魅力とはなんでしょう?
刀は1本1本個性があって、見ていてまったく飽きないんですよ。刀についてよく、ステンレスのように一様にぴかぴかしているというイメージを持っている方もいるんですが、そうではないんですよね。刀ごとに刃文の形状や刀身表面に現れた模様が異なります。その刀ならではの良さを見つけるということ、それが楽しいところですね。
また、刀は相反する要素が共存していて、そこにすごみも感じます。現代において刀は美術品ですが、人の命を奪うことができるものでもあります。そうした危険な側面がある一方で、姿形の美しさから人の心を癒す側面も持っている。こうした真逆の要素がある作品は他にはないんじゃないでしょうか。
――刀に惚れ込んでいることがよく伝わってきました。そんなに刀が好きなら「刀を作りたい!」となるようにも感じますが、なぜ刀そのものではなくケースを作ることにしたんですか?
初めて刀を購入したときに、「この刀をずっと見ていたい!」って思ったんです。しかし子供もいますし安全面の問題や、湿度などによる刀身の錆び、刀身への傷の配慮などから、刀をそのままむき出しで置いておくわけにはいきませんでした。刀を安全に管理しながらもっときれいな状態で見ながら生活できないかと考えるようになったんです。
刀は光に当ててこそそのきれいさが映えるんです。いつも光が当たるように飾って、自分の刀を愛でられるようにしたいと思いました。でも美術館の展示ケースのような製品があるかどうか調べてみたんですが、なかったんですよね。それで自分で作ってしまえと(笑)。
UFOキャッチャーなどを設計する仕事をしていたので、ケースを作ることには抵抗はなかったんですよ。逆に刀そのものは自分ではいいものを作れないと思っていて。過去に作られてきた素晴らしい刀がたくさんありますし、現代刀匠さんも作り続けていますし、刀そのものについては人に期待しようと(笑)。
――たしかに刀をそのまま飾るのは危ないですよね。他の美術品に比べて刀の飾り方って難しかったんですね。
そうなんです。私の祖父もふだんは押し入れに刀をしまっていて、手入れのためにたまに出す程度でした。けっこう押し入れや箪笥に刀をしまったままという方は多いんですよ。それってすごくもったいないですよね。
さらに悲しいことに、所有者が亡くなった後、ご遺族が刀に興味を持たないがゆえに、刀の手入れをせず刀が錆びだらけになってしまうことが多くあります。ふだん目にしていないと興味を持つきっかけがないでしょうし、刃物だから怖いイメージもあって、手を付けたくないんでしょうね。刀剣店などに持って行けばいいですが、最悪の場合ご遺族で処分する場合もあります。
でも所有者の方を惹きつける魅力がその刀にはきっとあったはず。なるべく次の世代の方にも受け継いで楽しんでもらいたいじゃないですか。
ケースに飾られていれば、ずっとしまわれている「よくわからないもの」ではなくなるでしょうし、錆びるまで忘れられることもないと思います。なにより生活の一部になって身近に感じられるようになる。私自身、部屋に飾ったことで刀のある暮らしを日常にできましたし、癒しがいつでもそばにあって幸せです(笑)。
――刀への認識も変わっていきそうですよね。
そう思います。同じ美術品でも絵は飾る人が多いですよね。絵と同じ感覚で刀も飾ってもらえるようになったらいいなと刀箱師の仕事をしています。リビングに刀がきれいに展示してあって、それを楽しんでいる親の姿を見て、子どもも興味を持つ。そんなふうになったらステキだなって。「お父さんずっと大切にしていたな」など印象に残れば、「人を傷つける怖いもの」からイメージが変わり、きれいさにも気づいてくれるかもしれないですよね。
――刀への並々ならぬ想いがあっても、会社をやめて独立するのには勇気がいったのではないでしょうか?
いえ、独立はわりと迷わずに決めました。もともと自分のやりたいことはなんだろうと悩んでいたタイミングでしたし、刀と再会したこと、ケースを自分で作ると決めたことで 、「これだ!」と自分の道を見つけられたように感じました。家族も「やりたいことが見つかってよかったね!」と応援してくれたんですよ。
―――実際に仕事としてケースづくりを始めて、反響はいかがでしたか?
独立して最初の1年半は設計や試作をしていましたが、2年経ってからは実際に注文もいただけるようになりました。自分としては製作依頼が来るまで5年はかかるだろうと覚悟していたので、驚きました。意外と自分と同じ気持ちの、「刀を飾りたい」人たちがいました。みなさん好きな刀をより楽しむ環境を求めていたんですね。
製作過程のまとめはこちら
実際にケースを購入された方は本当に喜んでくださって、ご丁寧な感想をくださったり、SNSに投稿してくださったりします。ケースを取り入れたことで、以前にも増して刀を楽しんでいらっしゃる様子を見ると、こちらも作る楽しみが増します。
――同じように悩んでいる愛刀家の方々が多かったんですね。
そうですね。最初は自分が刀を愛でながら暮らせる環境をどうしたら作れるかという思いから始まったケーズづくりですが、同志がいたんですね。仕事柄ケースづくりができたのは本当によかったですよ。
ケースづくりをとおして刀好きさんたちとつながれたこともうれしかったです。経営者の方や医師の方など、いままで接点がなかった人たちとも「刀」をきっかけにつながれました。人の輪が広がっていくことをおもしろく感じました。
――人とつながるといえば、「刀屋さん見学会」というのを定期的に開催されていますよね。
「刀屋さん見学会」は月に1度のペースで開催しています。もともと刀箱師の仕事を始めた根底に、刀好きとつながりたい・いろいろな刀を見たいという気持ちがあったのですが、ケース製作以外にもその機会は持てると、見学会をするようになりました。
刀に興味があるけど刀屋さんへ行く勇気がないという人や、ネットじゃなくて刀屋さんで刀を選びたいという人を対象にしていて、自分が仲介に入ることで少しでも刀を好きになるまでのハードルを下げられればいいなと思っています。
――中村さんは刀というモノだけじゃなく、人にも向き合っていくんですね。
ふだんは人付き合いとか苦手なんですけどね。飲み会なども苦手ですし(笑)。でも刀に限ってはいくらでも話せます! コロナ前は、刀好きが20人くらい集まって、それぞれが持ってきた刀をみんなで鑑賞するという会をしていました。いろいろな刀が見られて楽しいですし、持ち主がなぜその刀を選んだのかという話を聞くのも好きで。例えて言うなら「恋バナ」です(笑)。「なんであの人好きになったの?」って聞くのは楽しいですよね。
またこうした場では、交流することで自分の刀の知らなかった一面に気づけたり、理解が深まったりもするんですよ。だから刀素人さんも玄人さんも、好きなものをとことん楽しむために機会があれば参加してほしいですね。
――中村さんはご自身の活動をとおして最終的に何を目指しているんですか?
最終的には自分が発信しなくても、「刀ってきれい」と言う人が増えればいいなと考えています。刀がある生活、いわば「刀とくらす」ライフスタイルが当たり前になってほしいなと。
刀はどうしてもその性質上怖いというイメージがついて回ります。でも、何度でも言いますが、刀は本当にきれいなんです! そして刀を美術品として楽しむことは決して難しいことではありません。知識がなくても見慣れていなくても、すぐにその独特の模様や形状が分かるものです。でも大事なのは、興味を持ったそのあと。
せっかく刀を好きになってもそれを継続的に楽しめる環境がなければつまらないですよね。みなさんが刀に興味を持ち始めたとき、スムーズに刀にのめりこんでいけるよう私は、もっと空間デザインや演出を勉強して、刀を楽しむ環境を整えていきます。だから安心して刀沼に落ちてきてください(笑)。
――ありがとうございました!
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この記事を編集した人
ほんのまともみ
やる気ラボライター。様々な活躍をする人の「物語」や哲学を書き起こすことにやりがいを感じながら励みます。JPIC読書アドバイザー27期。