新納一哉さん、ゲーム開発にかける想い「やりたい気持ちに、ウソをつきたくない」
2020.07.29
仕事・働き方
2021.07.16
1枚の葉に絵本のように温かい物語が彫られたリトさんの作品。SNSで「癒される」「明るい気持ちになる」と大人気です。
リトさんはもともと絵を描いていたわけでも、切り絵が得意だったわけでもありません。以前はサラリーマン。不器用で要領が悪く、上司に怒られてばかり。生きづらさを抱える日々を過ごしていました。
病院でADHDの診断を受けるとすぐに会社を辞め、自分らしく生きられる道を模索。さまざま試行錯誤してたどり着いたのが「アート」でした。リトさんの「やる気」の変遷を追います。
リト@葉っぱ切り絵
葉っぱ切り絵アーティスト。2020年より独学で制作をスタート。毎日TwitterとInstagramに作品を投稿する。細やかで物語性のある作品は徐々に注目を集め、現在TV番組など多くのメディアで紹介されている。米国やフランスなど海外での評価も高い。2021年5月に初の作品集『いつでも君のそばにいる』(講談社)が発売。
Follow @lito_leafart
――リトさんの初作品集『いつでも君のそばにいる』を拝見しました!葉っぱ切り絵を始めたきっかけについて、ADHDであることがわかって「逃げるように会社を辞めた」とありましたが、以前はつらい日々を過ごされていたようですね。
そうですね。以前会社勤めだったときはとにかく仕事ができなくて、「ダメ人間だなぁ…」と自分で自分のことが嫌いになるくらい思い詰めていました。
ちゃんとやろうと思っていても、なかなか仕事が覚えられないし、要領良くできない。最初は優しかった上司もだんだん口調が冷たくなっていきました。自分も質問するのが怖くなって何も言えず、余計ミスを繰り返す。負のループでしたね。
それでもなんとか仕事ができるようになりたいと、通勤電車の中で解決法を調べていたんです。その過程でADHDという発達障害があることを知りました。
よくよく調べてみると特徴がすべて当てはまり、病院を受診すると予想通りの結果。肩の荷がおりました。逃げる口実ができたと思ったのです。だからすぐに会社を辞めました。
――そこからすぐにADHDの特性を生かすという視点になったのですか?
いえ、会社を辞めた直後は「これからどうしよう…」の状態でした。ただ以前と同じように働けるかといえば、それは「ノー」。
ぼくがまず始めたのは障害者雇用を探すことでした。しかしそういった求人は数が少なくなかなか自分に合った仕事は見つからなかったんです。
一方、もう1つ会社を辞めてから始めたことがありました。自分の障害について調べることです。理解を深めようと専門書などで勉強し始めました。
いろいろ読み漁っていると、ADHDの弱点を100%なくすことはできないとわかってきました。例えば忘れ物をしないようにと工夫して減らすことはできるんですが、ゼロにはならない。専門書ですらそう断言しているのだから、「無理に直さなくてもいいんじゃないか。逆に活かせる場を探した方がいいんじゃないか」と思うようになりました。
考えてみれば世の中には自分の特性を活かして活躍している人がたくさんいます。自分だって何か活かす道があるにちがいない。そう信じて前を向いて行きました。
現在作品を投稿するアカウントは元々ADHDについて勉強したことを発信するためのものだった。
――自分の輝ける場所を見つけるまでにはずいぶん試行錯誤を繰り返されたそうですね。
最初は何をやったらいいのか全然わかりませんでした。できることといえばSNSで自分の障害について発信することくらい。でもそれもしだいに書くことがなくなっていきました。ふだん生活している分には生きづらさを感じないですからね。
転機は就労支援事業所で講習を受けながらこっそり描いた絵でした。プリントの端に機械の部品のような絵を落書きしていたんです。描いているうちに「これをノートいっぱいにびっしり描いて、色もきれいに塗り分けたら、絵の下手な自分でもアートみたいなものが作れるんじゃないか」と思いつきました。その仮説を元に頑張ってみようと思ったんです。
またアートなら、ADHDの特徴である「過剰な集中力」を活かせると考えました。他のことは無理でもこれならやれそう、そういった「できる感」がアートへのやる気に繋がったのだと思います。
――「これならできる」という期待感はやる気を起こすのに欠かせないと思います。とはいえ、アートの世界も厳しいですよね。
そうですね。広いアートの世界で「これだ!」と思える表現に出会うのは大変でした。
最初はボールペン画、スクラッチアート、紙の切り絵などにチャレンジしました。たしかに細かい作業に時間を忘れるほど没頭してしまう自分には向いていたのですが、取り組む人が多いジャンルは人に注目してもらうということが難しかったです。
でもせっかく見つけたアートという自分らしく生きられる道を諦めたくありませんでした。諦めてしまえばまたやる気も何も起こらない日々に逆戻り。適当に仕事を選んでも、また失敗して怒られてくよくよ悩むのくり返し…想像がつきます。同じ大変な思いをするなら、アートのほうで努力を続けたいと思いました。
――葉っぱ切り絵という表現を見つけたときは壁を突破できた感じだったのでしょうか?
葉っぱ切り絵はネットでスペインの方の作品を見て知りました。衝撃を受けましたね。「葉っぱでこんなすごいものができるんだ!」と。でもまだスタート地点に立ったに過ぎなかったのです。
初めから満足いく作品ができたわけではなかったものの、葉っぱ切り絵はSNSにアップすると評判が良く、自分も「次はもっといいものを作ろう」とやればやるほど意欲が高まっていったので、「毎日投稿する」を目標にどんどん制作していきました。
「続ける」というのはSNSで障害について投稿し始めた頃から決めていた目標でした。今さまざまな分野で活躍している人は、それぞれ「これだ!」と信じたものを貫き通して一流と呼ばれるようになっていますよね。だからぼくも途中で投げ出さずひたすら続けるという努力をしました。
タイトルをつけるのはいつも作品が完成してから。悩みに悩んで2時間以上かかる日もあるという。
しかし途中で、続ける中にも考えを転換していくことが大事だと気づきました。
葉っぱ切り絵を始めた頃は、ウルトラマンや海外の珍しい生き物など、自分の興味の赴くままに作っていました。好きなものをいかに高度な技術で作るかを重視していたんです。しかし期待するほど周囲の反応は良くありませんでした。
きっと「こんなに細かいカットができるんですよ!」と腕前を褒めてもらいたい気持ちがどこかにあったんでしょうね。でもそれではダメだった。見てくれる人が楽しいと思ってくれたり、幸せな気持ちになってくれたりするものを作らなくてはいけなかったんです。
――現在の作品はデザインもモチーフもシンプルですよね。
見てくれる人に伝わらないと意味がないと気づいたんです。技術だけを追求して切りすぎていては伝わらない。葉っぱであることがわかるように葉の部分をある程度残すようにし、またキャラクターはウサギやリスといった人が馴染みやすいものを登場させるようにしました。
実を言うと当初は「イヌ、ネコ、ウサギ」みたいにみんなが選ぶ可愛いモチーフって、媚びているようで抵抗が大きかったんですよ。でもフォロワーさんが喜んでくれるようになり、やっぱり考えを変えて良かったのだと思いました。不思議なことに続けていくと、あまり作る気の起きなかった動物たちにも愛着が湧いてきたんですよね(笑)。
――続けて考えてまた続ける、をくり返してやってこられたんですね。これまでで「やっててよかった!」と思った瞬間といえばどんなときでしたか?
たくさんありますが、ADHDのお子さんを持つ方から感想をいただいたときのことです。「自分の息子もADHDで、親としては息子には自分らしく生き生きと人生を歩んでほしいけど、どうしてあげたらいいのかわからない。そんなときにリトさんの作品を見て希望がもらえた」というようなことを仰っていただけました。
ぼくは今、個展を開けるようになったり、本を出せるようになったりと、たくさんの「こうなったらいいな」を叶えることができましたが、やっぱり同じ境遇の人に希望を届けられるようになったことが一番嬉しいです。ぼくの作品で元気になってもらえたら、またぼくも「もっとやっていこう!」とスイッチが入ります。
――最後にやる気になれなくて悩んでいる人たちにメッセージをいただけますか。
はい。みなさんぜひ、自分がコンプレックスに思っていることに目を向けてみてください!ここが弱いなぁ、弱点だなぁと思っている部分の裏側にこそ実は強みがあって、やる気になれる道が開けると思います。
ぼくは結局、場所を変えただけで自分は変えていません。ぼくの1つのことに没頭して周りが見えなくなる気質は、マルチに仕事をこなさなければならない場ではデメリットでした。しかしアートのように人並以上の集中力が必要な場では強みになったのです。
弱みを裏返して強みにできる場所が必ずあるはず。やる気を起こせなくて悩んでいる方は、ぜひそれを探すことから始めてみてはいかがでしょうか。
――ありがとうございました!
記事公開を記念して、抽選で1名様にサイン入り書籍『いつでも君のそばにいる』をプレゼントいたします。リトさんからの温かいやる気メッセージも入っています。ふるってご応募ください!
応募は締め切りました。ありがとうございました。
\ リトさんをフォローしよう! /
\ 最新情報が届きます! /
あわせて読みたい
新着コンテンツ
この記事を編集した人
ほんのまともみ
やる気ラボライター。様々な活躍をする人の「物語」や哲学を書き起こすことにやりがいを感じながら励みます。JPIC読書アドバイザー27期。