新納一哉さん、ゲーム開発にかける想い「やりたい気持ちに、ウソをつきたくない」
2020.07.29
仕事・働き方
2021.01.8
新川帆立(しんかわ・ほたて)
作家
1991年2月生まれ。アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業。高校時代に全国高校囲碁選手権大会に出場。司法修習中にプロ雀士としても活動。「作家になるには、粘り強く長期戦に対応できるために食い扶持が必要」と考え弁護士に。現在は企業の法務部に勤務。第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞したデビュー作『元彼の遺言状』(宝島社)が2021年1月8日に発売。
――受賞おめでとうございます。『元彼の遺言状』、すごく面白かったです!
よかった〜(笑)。ありがとうございます!
――選考委員のみなさんも絶賛されていましたが、欲望にまっすぐな主人公の女性弁護士「剣持麗子」がとにかく強烈でした(笑)。もしかしてモデルは、新川さんご自身?
私は全然似てないと思っていますし、あんなに強欲じゃないんですけど、夫に読ませたら、「これはお前だよ」って(笑)。
――作家になるのは、16歳からの夢だったそうですね。
高校生のころ、夏目漱石の『吾輩は猫である』を読んだらすごく面白くて、自分もこういうものを書きたいと思ったのが最初のきっかけですね。
もともと本を読むのは好きで、小学生のときは、母の影響で『ハリー・ポッター』『指輪物語』『ナルニア国物語』とかのファンタジー、あとシャーロック・ホームズやアガサ・クリスティなどのミステリーを読んでいました。
で、高校生になったら「純文学も読まなきゃいけないのかな」と思って芥川龍之介とか明治の文豪の本も読むようになったんですよ。でも「なんでそんなに悩んでるんだろう?」と思って、私はあまり共感できなくて。小説というのは、悩みを深く掘り下げて書くもの、難しいものってイメージを持っていたんですね。
ところが 『吾輩は猫である』 は、すごく笑えるし、元気が出る。そんな小説を読んだのは初めてだったので、とても感銘を受けて、私もこういう小説を書きたいと思ったんです。
――じゃあ高校生のころから小説を書くように?
それが…恥ずかしいことに、16歳で「作家になる」と決めて以来、家族とか友達とか、会う人会う人に「いつか作家になるよ〜」「ペンネームは何にしようかな」と言いまくっていたんですよ。でも実はそれから10年間、何もやっていなくて。
――えっ!? 書いたことはなかった?
実際に書き始めたのは、2年くらい前からなんです。1行も書いてないのに、社会人になってからも「作家になるなる」言い続けていたので、今回受賞してから「あれ本気だったんだね」「言ってるだけだと思ってた」と、みんなに驚かれました(笑)。
私は100%本気でしたし、書きたいものもあったんですけど、作文でも褒められたことがなかったし、文才があるとも思っていなくて。そもそも小説ってどうやって書けばいいのか、書き方がわからなくて。
ただ、険しい道、厳しい闘いになることはわかっていたので、作家になるまで何年もかかるだろうし、作家になっても食べていけなくなるかもしれない。経済的な理由で夢をあきらめたくないと思って、まずは資格を取って専門職に就こうと考えたんです。
――それで東大法学部に入って、弁護士に?
当時は理系だったので、前期試験では医学部を受けたんですけど、落ちて。後期試験で合格した医学部以外どの学部でも入れる枠で、弁護士資格を取れる法学部に入学して、卒業後は弁護士事務所に入りました。
弁護士の資格も取ったし、落ち着いたら小説を書こうと思っていましたが、めちゃくちゃ忙しくて、全然落ち着かなくて。残業が月に150〜160時間ぐらいあったので、仕事だけでいっぱいいっぱいになってしまって、結局また書かずじまいで。
――プロフィールを拝見すると、プロ雀士としても活動していたとか。
司法試験が終わった後、1年くらい弁護士になるための研修期間があって、そのときは比較的時間があったんですね。高校時代は囲碁部に所属していて、そこで麻雀も覚えたので、せっかく麻雀もできるようになったのだから、プロになっておこうと。プロテストを受けて、公式戦にも出ていました。
でも、女の子のプロ雀士って 麻雀以外の部分が求められるところが大きくて。雀荘にゲストとして行って、どれくらい集客できるかが重視される側面もありました。
私は麻雀が好きでやっているだけなのに、女性だからって飾りみたいな扱いをされるのは、やだなって。今はもっとクリーンな業界になっていると思うんですけど、当時はそんなかんじだったので、仕事としてやっていくつもりはなくて。
――でもすごいですよね。東大に入って、弁護士になって、プロ雀士にもなって。どれも作家になるより大変そうな気もするのですが。
いやいやいや 、『このミス』 取るほうが大変ですよ。いま考えると、作家として食べていくために、まずは手に職をつけようと思って司法試験の勉強とかしてたんですけど、逃げていたのかなって。本当にやりたいことを正面からやるのは怖いみたいな思いもあったので、それを言い訳にして、書くことに躊躇していたというか。
――そこまで作家にこだわられた理由は何だったのでしょう?
私はゼロから何かをつくることのほうが面白く感じるんですね。弁護士って、今あるものをどう解くか、みたいな作業になるので、意外と単調というか、自分にいちばん向いている仕事だとは思えなくて。
そんな中で体調を崩して、ある日、めまいがして倒れてしまったんです。その瞬間、思ったんですね。「私、まだ何もやってない」って。
――ハードワークで倒れてしまったとき、やる気スイッチが入った?
そうなんです。私はずっと健康体で、今まで体調不良って人生で一度もなかったので、パニックになってしまって。「私、このまま死んじゃうのかな」って。
「ずっと作家になりたいと思っていたけど、何もやってない。今まで1行も書いてない。1回も書かずにこのまま死んでいくのは、いやだ。無念だ!」
視界がぐるぐる回るなか、そんなことを考えて。それで「このままじゃ絶対後悔する」と思って、弁護士事務所を辞め、企業の法務部に転職して、小説教室にも入って、やっと「今からやるぞ!」となったのが27歳のときでした。それが今から2年前です。
――夢を志してから10年、実際に書き始めていかがでした?
楽しかったです!本当に楽しくて、弁護士の仕事で徹夜をすると、ひたすらつらかったんですけど、小説で徹夜をしても全然つらくなくて、いくらでも書けるんです。
私は「山村教室」というスクールに通ったんですけど、それもよかったと思います。この教室では、自分が書いた作品を元編集者の方に講評してもらえるんですね。自分だけじゃなくて、他の人の講評も聞けるので、すごく勉強になりました。
私は習うとできるタイプで、逆に習わないとできなくて。こんなことなら、もっと早くやればよかったと思いました。教室にはプロデビューする一歩手前くらいの人たちが集まっているので、創作仲間たちと一緒にやっていけるのも楽しくて。
――先生や仲間の存在が、やる気アップにつながったんですね。
やる気がどんどん出てきて、途絶えたことがないです。今は会社に行っている時間以外は、ほぼすべて小説に当てています。土日も休んだことがなくて、インタビューで「プライベートでは何を?」と聞かれても、何も思いつかなくて(笑)。
――受賞作『元彼の遺言状』は、主人公の強烈で魅力的なキャラクターと、奇妙な遺言状の設定が高く評価されていましたよね。どういう思いで書かれたのですか?
ミステリーって男の人が書くことが多いし、探偵役も男の人が多いですよね。女の人が出てきても添え物的で、女性から見ると「こんな人いないよね」みたいな人も多くて。結構モヤッとしちゃうことが多いので、リアルに存在するような女性で、かつ女性が憧れる女性、女の人が好きになれる女の子を描きたいと思ったんです。
ただ、すごい強欲で、わがままだけど、人の足を引っ張ったり、意地悪なことはしない主人公にしようと。というのは、女性同士は仲が悪いとか、女の敵は女みたいな定説を私は信じてなくて。現実の女性は普通にやさしいし、仲もいいし、ネチネチした女性像みたいなものが好きじゃないので、自分が知っている世界をそのまま書こうと。
設定に関しては、意外と弁護士の経験が活きていて。 司法修習のときに、刑事裁判で判決を書くって作業があるんです。記録を読んで「この人が犯人だ」っていう起案を書くんですね。ミステリーを書くのは初めてだったんですけど、このステップを逆にすればいいんだと気づいて、犯人から考えてトリックを練っていきました。
遺言についても、法律の授業で習った「ポトラッチ(競争的贈与)」という言葉から発想して考えました。贈り物は一般的にはプラスの意味を持つことになっているけれど、実は攻撃にもなるっていう。そこからアイデアがいろいろ膨らんでいきましたね。
――弁護士の経験やプロ雀士のときの悔しい思いなども反映されているんですね。
すごく遠回りしてしまいましたけど、いろいろな経験をしてきたことが活きているので、結果的には良かったのかもしれないですね。
――夢を実現できた理由は、何だと思います?
今日お話していて思ったのは、(作家に)なれると信じて疑わない姿勢が良かったのかなって。前回 『このミス』に応募したときは、一次選考すら通らなくて、他にも2年間で6つぐらいの短編賞に応募していたんですけど、全滅だったんですよ。
でもだからといって「作家になれないかも」「向いてないかも」と考えたことは一度もなくて、自分はなるものだと信じていたんです。落選しても「誰かに読んでもらえるだけでも嬉しい!」って思っていました。私は周りの評価をあまり気にしないタイプなので、それをいいかんじにポジティブに変換できていたのかなって。
「出来ないかも」「なれないかも」と思うことは、目標実現においては意味がないので、どうやったら実現できるかってことしか考えませんでした。もともと楽天的なタイプなので、そのうちなんとかなるだろうと。
――それが重要なのかもしれませんね。今後はどんな作品を書いていきたいですか?
それは16歳のときから変わってないです。私は、読者にある程度の素養が必要だったり、よく考えないと意味がわからなかったりするものって好きじゃないんですよ。「お金を払ってなんで難しいことをしなきゃいけないんだ」って思うほうなんですね。
なので、ストレスを感じることなく楽しめて、かつ元気が出るようなものを書いていきたいです。エンタメ一直線でいきます!
――それでは最後に、『元彼の遺言状』について一言。
この受賞作は、女性が力強く活躍できる社会を願って、女性のために書きました。世の中はつらいことも多いですけど、本の世界にいる数時間だけでも、型破りな主人公と一緒になって笑ってもらいたいです。もちろん女性以外の読者も大歓迎です。軽く読めて、ちょっと元気が出る小説だと思うので、是非お手に取っていただければ。
――今後のご活躍も期待しています。本日はありがとうございました!
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この記事を編集した人
タニタ・シュンタロウ
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。著書に『スローワーク、はじめました。』(主婦と生活社)など。『元彼の遺言状』、本当に面白いですよ〜!