仕事・働き方

「自分ならできる!」自己効力感を高めるための4つのアプローチ方法 |やる気にさせる心理学(8)

2020.12.15

新型コロナウイルスによって働き方や教育、生活や人との関わり方など、 私たちの取り巻く環境は変化を余儀なくされました。さらに、AI社会、グローバル化など未来は大きく変わろうとしています。社会が変わっていけば、必要となるスキルも変わります。変化し続ける社会の中で自分のやりたいことを実現していくために、学び続けられること、成長し続けられることが大切になってきます。
そのために必要な要素の中でとても重要なのは「やる気」です。家で過ごす時間が増えたけどなかなかやる気になれない、子どもをやる気にさせるためにはどうしたらいいの?と悩むことはありませんか?
実は「やる気の出し方」「やる気の引き出し方」については、心理学の知見に基づいた方法論があります。
このコーナーでは、立正大学心理学部名誉教授の齊藤勇先生が、人がやる気になる・人をやる気にさせる心理学的なメカニズムを、みなさんにわかりやすく説明していきます。

立正大学心理学部名誉教授
齊藤 勇

対人心理学者、文学博士1943年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。現在、立正大学名誉教授、日本ビジネス心理学会会長。 対人・社会心理学、特に人間関係の心理学、中でも対人感情の心理、自己呈示の心理などを研究 。TV番組「それいけ!ココロジー」に出演し監修者を務めるなど、心理学ブームの火つけ役となった。『人間関係の心理学』『やる気になる・させる心理学』など、編・著書・監修多数。

 

自己効力感とは


  

―― 人をやる気にさせるには、「自己効力感を高めましょう」といいますが、そもそも自己効力感ってなんですか?

  

「自分ならできる」という自信があると、新しいことや難しい課題が出てきても「やろう!」というやる気がでてきますよね?この「自分ならできる」と思える感情もっていることを、心理学では「自己効力感」といいます。これは、バンデューラという心理学者が提唱したことなんですが、自己効力感は、行動するための先行要因であると考えられています。簡単に言えば、やる気の原動力のひとつです。

日常生活における「やる気」は個人のパーソナリティを指すことが多いのです。やる気がある人とかない人とか。ダイエットやマラソンなど、良いことだけどやるのが大変なことをやる人を「やる気がある人だ」といいます。

  

一方、自己効力感は、課題に対して「自分にはできそうだ」と頭のなかでプランニングができることです。できないものもある中で、具体的なことを「自分ならやれる」と思えることですね。個性としてのやる気ではなく、課題に対してやる気になるかどうかと思えることをいいます。

 

例えば、数学の勉強をしていて、難しそうな問題に直面したときや、新規事業の立ち上げメンバー募集があったときに、「これは自分ならできそうだ」と思える自信があることによって、その課題に対して取り組もうとします。自己効力感が高いほど自己に対する肯定感とやる気を生じ、次に来る課題に対しても積極的に取り組む気持ちが生まれるんです。

 
 
 

自己効力感を高めるための4つのアプローチ


 

―― 部下の自己効力感を高めてあげられるいい方法はありますか?

 

バンデューラは自己効力感を高めるためには4つの情報源があると説いています。

    

①直接体験

様々な成功体験を積ませることです。自分で実際に行って、「できた」という体験をさせることは自己効力感を高めるのに大変重要です。仕事でも、上司がやったほうが早い仕事もありますが、部下に任せてみましょう。100のアドバイスよりも、一つの成果の方が自信とやる気を生むのです。

  

②代理体験

代理体験とは、ほかの人が成功したことや失敗をみることによって間接的に体験し、自己効力感を形成することです。人が成功しているところを観察することで「自分にもできそうだ」と感じて、自己効力感が高まります。

  

ロールモデルはあまり自分とかけ離れている人よりは、身近な人がいいですね。プレゼンの資料作成や仕事の進め方など、社内で「この人のやり方いいな」と思う人がいたらまずは模倣してみましょう。社内にいなくても、ネットなどで成功事例を見つけて実践してみるのもよいでしょう。

 

③対人的影響

人からの言葉による説得が自己効力感を高めます。例えば、先生や友達、親からの承認、褒められるということですコロナの影響で無観客試合もありましたが、観客のだれもいない野球で勝った時よりも、大観衆の中で勝利し、みんなから祝福されたときの方が自信につながります。仕事でも、同僚から「すごい、よくやってくれたね」などと口々に賞賛されそして、上司からも「今回は君のおかげだよ」などと言われたら、それまでの苦労や不安もふっとび、自己効力感でいっぱいになります。

   

④生理的変化

四つ目が、情緒的な安定(心身の健康)です。 不安や緊張、体調が悪いということ自体も自己効力感に影響しますので、とても大切なことです。総理大臣だった安倍首相も健康上の問題で辞任を決めましたが、いかに心身の健康が自己効力感に影響するか、よくわかる例なのではないでしょうか。

 

 

―― 自分自身が「もうだめだ」と思ったときはどうしたらよいでしょう

  

人間は本来、ある程度時間が経つと元気になるから大丈夫なんですよ(笑)。病的なほどの状況にならない限り、人間にはだれでも回復力が備わっていて、ポジティブになれるのです。情緒的安定が回復してくると心身が元気になる。安倍元首相も最近では元気になってきたようですし、回復させようとすることはとても大切です。

  

落ち込んだり不安に思ったり、もうだめだと思うときは、まずは心身をゆっくり休めて、気持ちをリフレッシュしたり、成功をイメージして心を健康にしましょう。自己暗示をかけることも方法の一つです。

  

また、情緒的安定を保ったり、回復させることが一人では難しい時には、思い切って信頼関係のある上司や先生に相談してみるのもよいですね。例えば信頼している上司から「これまでだって、君はこんな風にがんばってきたじゃないか」なんて言ってもらえたら、やる気も回復してきますよね。

 
 
 

失敗体験から学ぶ成功体験も大事


 

自己効力感は、先の4つの情報源の中でも最も効果的なのは、過去に成功体験をどれだけたくさん積んでいるかということです。だからと言って、部下や生徒の自己効力感を高めようと思って、とにかく簡単なことばかりやらせて成功体験を積ませていても、自己効力感にはつながりません。

     

できることが簡単すぎると変な自信しかつきませんから気を付けてください。努力して成功する経験が一番重要なのです。難しい課題に直面したときに課題をクリアできた体験が、その後の自己効力感につながるのです。

 

逆に、失敗体験が多かったり、人がやっていることを見て、「これは自分にはできない」と思ってしまったり、他人から承認されることもなく常に不安を感じているということがあると自己効力感は低くなります。

 

とはいえ、人生、成功体験ばかりではありませんよね。失敗もたくさんします。でもそれは悪いことではありません。失敗しないと学ばないこともたくさんありますから。

   

自己効力感を高めるためには、失敗したとき、自己効力感を低めないために、周りの人のフォローが大事です。ここが先生や上司の対応の一番難しいところですが、失敗から学んだことを生かして達成した経験があることは、失敗なく成功したことよりも深く記憶されますので、より自信につながっていきます。

 

失敗したところから成功体験を積ませるためには個々の個性に応じたサポートが必要になってきます。失敗したときこそ、マネジメントする側がその人の個性を知っていることが大切です。「こう言ったらダメだ」、「こう言ったら彼(彼女)は頑張れる」という部分をしっかりと把握して、失敗のとらえ方を変えてあげましょう。

  

バンデューラのこの考え方は広く諸現場で応用され、実践されています。例えば、医療現場でも看護計画やリハビリの計画など、自己効力感を取り戻すような方法に重点が置かれて作られています。もちろんこれは病気に限ったことではなく、自己効力感こそ自己成長とやる気の源泉であることを示していますよね。

 

 



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この記事を担当した人

わん子

やる気ラボに古くからいる微魔女犬。やる気が失せると顔にでるためわかりやすい。my癒しは、滝と戦闘機と空を見上げること。

 
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