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立正大学心理学部名誉教授
齊藤 勇
対人心理学者、文学博士1943年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。現在、立正大学名誉教授、日本ビジネス心理学会会長。 対人・社会心理学、特に人間関係の心理学、中でも対人感情の心理、自己呈示の心理などを研究 。TV番組「それいけ!ココロジー」に出演し監修者を務めるなど、心理学ブームの火つけ役となった。『人間関係の心理学』『やる気になる・させる心理学』など、編・著書・監修多数。
やる気のある人というのは、もともと「やりたい」という欲求が強くあるからすぐにも行動しますよね。とはいえ、世の中やる気に満ちた人ばかりではありませんし、ネットで検索しても「やる気の出し方」とか、「やる気になれないときの対処法」なんていうものがたくさん出てきます。
それは、一般に、やる気が人を動かすと考えているからです。人は「お腹が空き、食欲があるからごはんを食べる」とか、「学びたいから勉強する」と考えます。つまり、人間は欲求に基づいて行動していると思っているんですよ。 まぁ、その通りで、それが普通の考えです。
ですが、仕事や勉強などに関していうと、やる気がないわけではないが、いつでもやりたいという気持ちになるわけではない、そんな気にはならないということはしばしばあります。そんなときには、逆に、先に行動してみるのも良いでしょう。人間はやりたくないことでもやってみると、「自分は実はこれがやりたかったんだ」、「これ、結構面白い」などと、行動に合わせて思考を変えることもあるのです。
心理学には、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーが提唱した「認知的不協和理論」という理論があります。
彼は、一つの実験をします。
学生を集めて彼らに単純で面白くもない作業をずっと続けさせました。その後実験者は学生たちに、次に同じ作業をする学生には「作業は非常に面白いものだった」と、意に反した説明をするように指示をしました。そして報酬額を2パターン作り、バイト代が多い場合と少ない場合の2グループに分けました。
報酬を支払った後、「あの作業は楽しかったですか?」という質問に答えるアンケートをしたところ、バイト代を少なくもらった学生のほうが「楽しかった」と肯定的に答えた人数が多かったのです。
報酬の低い学生は、 割に合わない報酬でも「楽しい作業なんだ」と説明していく中で、認知に修正を加えて矛盾を解消させ、実際に面白かった作業を面白いと素直に説明しただけなのだと考えなおしていたのです。
これは、人は思考の中で矛盾する二つの考え(認知)があると不快を感じるので、自分にとって都合が良いように認知を変えようとする心理です。このことは、好きではないことでも、実行していると、頭の中でつじつまを合わせようとして、好きになるということなのです。心理学用語ではこれを「不協和認知の解消」あるいは「認知の再校正」といいます。
先日、知人から娘さんが就職で上京して部屋を探した時の話を聞いたのですが、娘さんは「風呂・トイレ別」というのが第一条件だったそうなんです。でも、色々と物件をさがしても希望の立地で出せる家賃を考えると見つからなくて、渋々風呂とトイレが一緒のユニットバスの部屋に決めたそうなのです。でも、今では「掃除が楽だ」と言って、快適に暮らしているそうです。このように自分が決定し、実行した事柄に対して肯定的になるのは、認知を再構成した一つの例ですね。
この理論をやる気に応用すると、興味がなくやらされていても、やっているうちに、面白くなり、やる気が出てくる、となります。乗り気でなくても行動させてしまえば、行動に気持ちを合わせるようになります。
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この記事を担当した人
わん子
やる気ラボに古くからいる微魔女犬。やる気が失せると顔にでるためわかりやすい。my癒しは、滝と戦闘機と空を見上げること。